福岡吉本の寿一実が座長の「寿喜劇堂本舗」の第1回公演である。その意気込みが伝わってくる舞台だった。
45歳の寿課長が、部下とまとめた企画案を部長に持ち込むと、対立している社長ジュニアの専務から首にされてしまう。
状況をリセットしたいと胃薬を混ぜて飲むと数時間前に戻った。そこで今度は企画案を専務に持ち込むと、業績不振で会社は部長に乗っ取られ、専務派と目されて首にされてしまう。このあたりの同じ時間の別の進行は面白い。
しかたなくまた薬を飲んで20年前の新入社員まで戻るが、そこでも派閥抗争でうまくいかない。ここでは、服装や言葉遣いに80年代の雰囲気が出ている。
そこで、小学生まで戻ることを目論んで薬を飲むが、父親の体内の精子まで戻ってしまう。寿一実がおたまじゃくし姿で登場だ。
あらすじからもわかるように、ストーリー性が強いけっこう長い芝居で、吉本にしてはアドリブやギャグが比較的少ない作品だと思った。
出演者もどちらかというとまず役者として演じることを主眼にしている。だからコメディ劇団風になっており、ドタバタの多い吉本新喜劇とは少し違うような仕上がりになっている。あまり脱線しないことが却って不満なくらいだ。
台本には45歳の寿一実の思いが込められている。
終幕近くの寿一実は、「あのとき新喜劇をやめなんだら」とか「島田紳介と組んでいたら」とか、役をはみ出て本音を独白するシーンまで用意されている。そこまでやって、やや思い入れが強すぎるかなと思えるくらいだ。
きょうは40〜50人の入りだったが、これだけ楽しめる芝居なら、もっとお客は増えると思う。ドタバタ主体のものなども加え、幅を広げながら続けていってほしい。