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《2001.11月−11》

泊篤志−構想の大きさと表現の多彩さと
【機械が見れる夢が欲しい (飛ぶ劇場)】

作・演出:泊篤志
23日(金) 14:00〜16:00 スミックスホールESTA 2500円


 SEGAに勤めたこともある泊篤志の、深いゲームの知識をベースにして、構想・しかけの大きさと表現の満載の多彩さが存分に発揮された作品だ。難解なところもあるが、深い印象を残す。

 初めてのスミックスホールESTAに入ると、大きな像と石壁の古代の宮殿のイメージのセットで、客席はそのセットの一部に据えつけられている。
 高い天井のホール全体が、ゲームの中の世界なのだ。ゲームの外の世界は、わずかに窓のように仕付けられているところで演じられる。

 ネット上のゲームの世界で行方不明となったメインプログラマー・ムツミを探しに行ったコグレも、また行方不明になってしまう。
 ネット探偵とともにゲームの世界に二人を探しに行くユイが、ムツミのいるアッパーワールドに到達するまでにクリアしなければならない障害として、信長の陰謀、マージャンゲーム、ダンスダンスドラゴン、ロールプレイイングゲームなどのゲームが設定されている。

 途中まではなぞときというよりゲームで遊んでいる風情だが、人生変更ゲームの中で、不幸な少女時代の記憶を売ったユイと買ったムツミという関係が浮かび上がる。現実とバーチャルとが連環した!

 ふたりはいま、ムツミが夢見て作った、バーチャルな人間の世界であるアッパーワールドにいる。自由な、肉体のない精神だけの世界で、新しい価値観、新しい人間の世界だ。
 ふたりは現実にはもどらない。ネット上のアッパーワールドで生きることにしたふたりには、ネットでの出来事が現実となる。
 現実世界に戻らないということで、開放されたまま収束しないという結末になった。

 バーチャルと現実が逆転し、バーチャルが現実を飲み込んでしまうのだが、記憶の売り買いから、バーチャル世界で生きる決心までがやや簡単すぎるように思う。バーチャルの世界を遊んだ私には、それもありうるかなと思えるいうレベルだった。

 そのような多層的な構造の多彩な表現の作品を、俳優は1人何役もこなしながらうまく演じていた。戯曲が俳優を引っぱって行っている面が大きい。

 客席は150席弱で、6ステージが満員になったとしても総観客数は1000人に満たない。これだけの作品、もったいない気がする。


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