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《2001.11月−14》

韓国ミュージカルの凄さ◎実感
【地下鉄1号線 (韓国ハクチョン劇場)】

作・演出:キム・ミンギ
24日(土) 19:00〜21:45 西市民センター 3000円


 韓国のミュージカルの隆盛ぶりを聞くにつけ、観たい!観たい!と思ってきた。それが福岡で、しかも考えられないような低料金で、ロングラン中の代表的な作品が観られるのだ。うれしくてしょうがない。

 あわてて発売後すぐ前売り券を購入したら、席がA−18と最前列のど真ん中で、舞台の迫力はもろに伝わってくるが、字幕を見るのに苦労した。

 すごい作品だ。
 中国の朝鮮族の若い女性・仙女が、ソウルに恋人を尋ねてくる。この女性の無辜な目をとおして、大都会の猥雑さをとことん描く。

 人物はみな強烈だ。
 その中でも特に、ぶちきれたプロテクトソングを歌うストリートシンガー・メガネと売春婦・ゾウキンの愛が軸になる。ゾウキンに食わせてもらっているメガネが、その代償としてゾウキンに肉体関係を申し出たら、ゾウキンは地下鉄に飛び込んで死んでしまう。そんな屈折したふたりの心の動きをはじめ、街にうごめく人々の生き様をダイナミックに描き出す。

 そのようなストーリーにからめて、地下鉄の乗客の描写を実に生き生きとやって見せる。俳優は、メインの配役とともに、ひとりで幾人もの乗客を演じるのも楽しい。全員、切れのいい動きだ。 

 音楽はロックで迫力があり、管楽器を使って情緒的なところの強調もきちんとやるなど、ドラマ進行と徹底的に融合している。
 歌もいい。メリハリがありながら洗練もされている。かなりどぎつい歌詞を、じつにきれいに聞かせる。その技量にも感嘆する。

 台本は、危うさを抱えた激烈な人物や、一気に変わる状況の転換など、唐十郎の芝居に似ていると思った。説明がある分、人物も展開も唐十郎よりわかりやすい。
 演出は、野田秀樹を思い起こさせるが、野田より暗く、骨太に、しつこくしたという感じだ。俳優を徹底的に舞台中動かす。上流夫人を男優に演じさせるなども楽しい。

 韓国映画もすごいが、ミュージカルにおいても、人物の見つめ方の深さと、それを表現する力は日本より高いと思った。
 それにしても、この作品の面白さを言葉ではうまく伝えきれないのがくやしい。自分の表現力の低さにいやになる。

 これだけの作品なのに、24日土曜の夜は空席が目立った。私の周りの席は韓国語を勉強している人の集団だ。演劇好きの人のアンテナにひっかからないはずはないのに観客が必ずしも多くないのはなぜだろう。わからない。


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