この芝居、私の意識のあとからえっさえっさとストーリーが追っかけてくるという感じで、まだるっこいことこの上ない。
大きな仕掛けを仕込んでいるぞとみせかけようとしているが、そのストーリーも単純すぎるほどのものだし、セリフの内容が希薄で、ことばも魅力的ではない。
結果、ほとんどの場面はたいくつで、なんとか見せるのは最後の15分だけだ。
漫画家・井上に編集者・藤田は「少年Z」を書かせる。それに符合する現実社会の事件が起こることで漫画は大ヒットする。しかし、悪が勝つようにストーリーを変えさせようとする漫画の中の悪者・太田蓬蓮に拉致されて井上は漫画の世界に行く。そこで正悪入れ混じっての戦いだ。
こう書くと面白そうだが、緊迫と緊張がなく、特に前半は空疎なセリフばかりで、人物がからまない、ドラマが進まない、結果白けて、眠い眠い。
佐野元一の台本のことばがドラマをはらまないのはなぜか。
あたらしいことが何もないにもかかわらず語りすぎている。眼をつむっていてもわかるというどうしようもない内容のなさだ。例えば、宗教に関する議論なども常識的すぎてインパクトはない。
もう少し知的レベルを上げたがいい。観客は作者が考えているよりもはるかに賢い。
登場人物のキャラクタは、名犬チャっピーやおかまの銀次など面白い。また、俳優は個性的で魅力的だ。
しかしこの台本では演じようがないから、演技やキャラクタの面白さだけではカバーしようがない。ときどききらりと光る演技があっても全体と繋がらないのでイライラは高じるばかりだった。