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《2001.12月−7》

生なればこその魅力がすばらしい
【今日までどうもありがとう (カクスコ)】

構成・演出:中村育二 台本:中村育二、井之上隆志
8日(土) 19:25〜21:40 シアタートップス(東京) 4800円


 カクスコの芝居とアカペラ、いかにもという細かいしぐさと会話の積み上げが面白くて笑い転げながらも、なぜか涙が滲んでくる。涙は、最終公演だからというのも少しはあるのかもしれない。

 ごく普通の人の心の動きを、実に繊細に捉えて表現する。登場人物は貧乏だが心は豊かだ。そのような人たちの暖かさをやさしく描く。

 今回の最終公演は名場面集だが、舞台はぼろアパート・さつき荘だ。終幕近く、仲間の一人が故郷へ帰る話がひとしきり続き、劇団解散の理由をオーバーラップさせる。夜中に黙って出立しようとした仲間を見つけ、何もないながらのにわかの送別会だ。

 そのようなきちんとドラマになっているところももちろんあるが、ただなんとなく面白いという場面をていねいに作っているのも特徴だ。
 例えば、よく知らないクリスマスソングをめちゃくちゃに歌っているのを、横で聴いていた人が注意するが、別の歌に替えても結局は同じというようなコントに近いシーンが、実に生き生きとしていて楽しい。

 日常生活の描写もていねいだ。深夜のうるさいアカペラに文句を言いにくる大家は、カーデガンの腕が通せず体をねじるしぐさが面白い。このようなところを実際に演出としてやる芝居はめずらしいと思う。

 いかにもありそうなことを無造作に並べたという印象だが、さりげなさくみえるまでに十分練り上げられている。

 新国立劇場でオペラの終演が19時を少し過ぎた。優先順位が高かった文学座アトリエでの「牛蛙」(川村毅の新作)にも、燐光群の「白鯨」にも、東京タンバリンの「コウエンデ」(高井浩子の新作)にも間に合わない。
 そこで、19時30分開演のカクスコに駆けつけたら、シアターガイドの掲載ミスで、到着した時にはすでに始まっていた。無理やり入れてもらったが、はじめの20分ほどを観られなかった。それでも十分に楽しめた。
 この劇団はどうしても生でないといけない。電波を通すといちばん大事な部分が死んでしまう。


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