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《2002.2月−7》

哀愁に充ち過ぎた仲代フォルスタッフ
【ウィンザーの陽気な女房たち (無名塾)】

作:W.シェイクスピア 訳:小田島雄志 演出:林清人
16日(土) 13:30〜16:10 ももちパレス 3100円


 もともと演技の幅が狭い仲代達矢のフォルスタッフは、好色さや傲慢さや大法螺や滲み出るユーモアなどが渾然一体となったはちゃめちゃなエネルギーが弱く、哀愁に充ち過ぎている。予想したとおりの仲代らしいフォルスタッフというべきか。
 舞台の雰囲気はそこに集約されるが、フォルスタッフが負け惜しみで最後に言う「わかっていて騙されてやった」という言葉に、演出者が騙されてしまったような舞台だ。

 その演出は古臭い。30年以上前の千田是也演出による俳優座の舞台を観ているような気分だ。しかも千田演出より切れ味は悪い。
 演出は徹底的に形にこだわり、衣装と装置に特にこだわっている。しかしこだわった割には陳腐で見るべきほどのことはなく、よかったのは4枚の屏風型の装置をうまく組み合わせて室外と室内をテンポよく作っていたことくらいだ。額縁舞台やウィンザーの町並の幕にも新鮮味はなく、妹尾河童の美術はどこにあるのという感じだ。

 肝心の人間には一向にこだわらない。だから人物の個性も思いも描けず、面白さは出てこない。このあたりは隆巴の演出との差は大きい。
 ウィンザーの人たちの個性のなさは俳優にも原因がある。衣装にこだわりながらも、出てくる人物の感じが非常に似かよっているのだ。主人と召使いなどどっちがどっちかわからなくなるくらいだ。無名塾の俳優募集と訓練の画一化のせいかと勘ぐりたくなる。

 この舞台を観て「小田島訳も古くなったな」と思った。慣れすぎたせいもあろうが、かって新鮮だった言葉あそびも不発の率が高くなった。それを堂々とやる姿勢も問題だ。いま上演するなら松岡和子訳ではないだろうか。

 福岡市民劇場2月例会の2日目に観た。福岡では26日まで11ステージが続く。東京では3月にサンシャイン劇場で15日間の公演だから、10000人近い全国一の会員数を誇る福岡市民劇場の観客動員力がわかる。


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