前半は一本調子でたいくつだが、後半やっとこの戯曲のよさが現れる。じっくりと取り組んでいるのはいいが、やや鈍重で、メリハリと軽快さに欠けるのが惜しい。
肉体を持たないで、完全に自由になったはずだった非現実世界の住人4人の男女が、実はひとつ決断するたびに不自由になっていくという戯曲の発想は面白い。
だから、現実と非現実の世界がだんだん近づき、この失踪事件を追っていた刑事の失恋が語るありえたかもしれない世界を垣間見せることで、ついには非現実の世界が現実の世界を呑み込んでしまうところまでもっていった戯曲の力量は立派だ。
この戯曲は、大阪の劇団「自由派DNA」の座付作者である梶原俊治の作品で、「自由派DNA」による公演は1999年秋に福岡でも行われている。そのとき客演した劇団GIGAの菊沢将憲が今回も参加している。
演出はかなり荒っぽい。生きがよくて勢いがあるのはいいとしても、動きもしゃべりもまったく洗練されていない。非現実世界と現実との描き分けなど、もう少していねいに、もう少し落差をつけてやった方がよかった。象徴的な表現、重層的な表現はほとんどできていないのは、この作品への入れ込みがわかるだけに残念だ。
演技については、前半は力が入りすぎて一向に決らないギャグで白けるが、非現実と現実が接近してくる後半になってようやくストーリーに何とか乗っかったという印象だ。
それでも非現実世界の住人役は、その一人・東巻を演じた菊沢将憲の軽いが、時に突っ込み、時に引き伸ばすパフォーマー的演技に幻惑されてしまい、却って本来の非現実の表現から離れてしまったように見える。劇団空想童子から客演の新聞記者役の米倉沙衣子は、3月の「ハコノナカ」の方が圧倒的によかった。
全体的に、押さえながら緊張感を保つような演技ができていないのがつらい。
とはいっても、まあ楽しめた。戯曲がオリジナルでないと、ついいろいろ文句を言いたくなる。
この劇団は久留米の劇団だが、春日市などの劇団からの客演が多かった。2日目の夜の回を観たが、ほぼ満席だった。