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《2002.4月−9》

センスいい◎上質な舞台
【眠らない瞬膜 (きらら)】

作・演出:池田美樹
27日(土) 18:30〜20:30 アクロス福岡円形ホール 1800円


 久しぶりに観た劇団きららの本公演は、メリハリの利いた質の高い舞台で楽しめた。
 前回観たのが第11回公演「蒼穹のエレメント」(1990年10月)だったから、第28回公演の今回の本公演観劇は11年ぶりだ。その頃の池田美樹の作品は、ファンタスティックな作りで、野田秀樹の作品によく似ていた。
 昨年番外公演を観て、個性的な俳優がそろっているのはよくわかったが、池田の戯曲がどう変わっているのか、本公演を観たいと思っていた。

 よくできた戯曲だ。ストリートで商う若者たちの自分探しの話で、リアルと幻想の境目あたりをねらったような作りだ。
 ストリートで「うなづき屋」という商売をやっている青年と、余命3ヶ月という少女の、「感動探し」の話がメインストーリーになる。

 「うなづき屋」の青年に、その助手、ろくでなし大人、ストリートの仲間、さらにはふたりのことをテレビドラマ化する売れっ子脚本家などがからみ、ふたりのことはマスコミの話題になるが、結局は少女の余命3ヶ月というのはウソで名前も偽名で、精神科入院中とわかる。
 マスコミから見放されて戸惑う青年は少女に電話するが、少女は死んでいた。

 戯曲について言えば、前半はテンポいいが、後半は晦渋なところが多い。この晦渋こそが池田の成長の証かと思う。
 ろくでなし大人が世の中のことを、競争ではなくなぜ協調しないのかとひとくさり嘆いてみせ、売れっ子脚本家も自己保身のため世事に長けた一般論を述べる。そのような直截な表現はひと言とり間違えると混乱してしまうのが観客としてもつらいところだが、あえてことばでの説明によるテンション低下の危険を冒しながらもかれらに言わせていることは、池田の誠実さの表れだと思う。
 ここで安易に別世界に逃げ込んだり、希望ややる気を強調し大音響で盛り上げてシャンシャンなどという初期の作品にみられたような結末でないのは好ましい。
 しかし直截なことばの扱いなど工夫の余地はあり、まだ発展途上だなという気はする。

 演出は小気味いい。個性的な役者の持ち味をうまく引き出している。舞台上での衣装替えなどのセンスもいいし、矩形のローラー付ハンガーをドアやテレビに見立てるという非常にシンプルな装置のセンスもすばらしい。他にも、楽しめるアイディアがいっぱいだ。

 俳優はみな個性的で、幅の広い柔軟な演技だ。
 少女を演じた宗真樹子の演技は、形象化された人物の表現はシンプルに見えるところまで練り上げられている。しかも、少女、その母、ワイドショーキャスターの3役を高いレベルで演じる演じ分けも楽しい。そのレベルの幅の広さなのだ。
 このレベルの演技、福岡にはあまりないように思う。


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