住吉神社能楽殿での第6回ふくおか市民能は、観世流の「巴」がすばらしく、いままでほとんど経験したことがないような迫力の演能を大いに楽しんだ。他の舞囃子、狂言もそれぞれに楽しめた。
正面中央の最前列に座って観たら、形と音がドッと押し寄せてくるという感じで、引き込まれてしまう。そういえばそのような席で能を観たことはついぞない。かって朝日五流能なぞ一般売りは電気ホールの最後列とひどい席で、全然観にくい。それで面白うはずがない。
上演順に感想をのべる。
○舞囃子「養老」(喜多流)
いかにも生真面目という舞もいいが、器楽と地謡は迫力だ。
○仕舞「羽衣」「松虫」「船弁慶」(観世流)
「船弁慶」を舞った鷹尾維教が、動きに勢いがありキビキビしていてすばらしかった。
○舞囃子「葛城」(宝生流)
動きが鈍く、たいくつだった。
○狂言「仏師」(大蔵流)
最後の、仏師と頼んだ人とのやりとりは面白いが、そこに至るまでの運びが重くてややたいくつだ。
○能「巴」(観世流)
シテ・森本哲郎の巴御前の気品がすばらしい。アイ狂言(野村万禄がいい)の前後で扮装も演技も変わるのが楽しい。そのみごとな姿形に惚れ惚れしてしまう。ワキの僧の苗坂融もきっちりと説得力のある演技で見せる。
それらが器楽と地謡とみごとにマッチして大迫力だ。能とはこんなにも生々しいものなのだ。
こんな料金でこのようなレベルの公演を観られるのはうれしい。ほぼ満席だった。
終演後出口に向かっていると、福岡市文化芸術振興財団の山田統括プロデューサー
と会った。財団が当初は支援していた市民能もすっかり独立したということだった。
このごろ山田さんを劇場で見かけることが多いが、多くの公演に福岡市文化芸術振興財団がかかわっているから当然か。きょう、間違った名前で声をかけてしまった。山田さん、ごめんなさい。