松たか子のきれいさと演技に魅了された。幅の広い演技が要求されるアルドンサをみごとに演じきった。
「ラ・マンチャの男」は趣向あふれるけっこう込み入った作品だ。
教会を侮辱した罪で投獄されたセルバンテスが、地下牢で囚人たちと「ラ・マンチャの男」の即興劇を繰りひろげる。それは、郷士アロンソ・キハーノがラ・マンチャの騎士ドン・キホーテと名乗り、すべての罪を滅ぼさんと世界に飛び出す話で、そのアロンソ・キハーノ=ドン・キホーテをセルバンテスが演じて、それぞれの人物の状況を重ね合わせるることで際立たせる。
松たか子演じるアルドンサは宿屋の下働きの女だ。
ドン・キホーテから「美しきドルネシア姫」とされたことで心を動かされ、別人のように変化する。
しかし、ラバ追いたちに連れ去られていたぶられて、ボロ布のようになってしまう。
さらにしかし、アルドンサはもう一度変わる。アロンソ・キハーノを現実の世界に引き戻すために仕組まれた鏡の騎士に敗れたドン・キホーテは、キハーノとして瀕死の床にある。そこにアルドンサが駆けつけるが、はじめはキハーノには彼女が誰かわからない。しかし、彼女に必死の叫びにドン・キホーテのことを思い出すのだった。
松たか子が登場しただけで息を呑むし、彼女から目が離せない。生き生きしていて実に魅力的だ。
変転するアルドンサを、幅の広い演技でみごとに表現する。甘ったるくないところまで練り上げられているのがいい。
「ラ・マンチャの男」は、1966年にトニー賞5部門を受賞した作品で、1969年4月に市川染五郎(現:松本幸四郎)主演で東宝ミュージカルとして上演されている。以後上演を繰り返してこの回は幸四郎主演の949回目で、その間アルドンサは草笛光子、上月晃、鳳蘭などによって演じられてきた。
松たか子は1995年から1999年までの上演でアントニアを演じた。
この上演では、マイクの音が大きすぎるのが気になった。却って臨場感を損ねる。
上演時間は休憩なしの2時間5分で、このくらいなら立ち見もそれほど苦にならない。