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《2002.5月−9》

えーっ、これが子ども向け?!
【UBU−BOMI! (遊玄社)】

脚本:関谷幸雄・藤田傳 演出:関谷幸雄
19日(日) 18:30〜20:10 南市民センター 3000円


 「えーっ、これが子ども向け?!」とびっくりした。練り上げられた上質なミュージカルだ。
 おとなの私にとってもけっこう難解で見応えのあるこの公演が、福岡南子ども劇場の小学低学年向け(!)例会なのだ。

 この作品は、宮沢賢治の「ペンネンネンネンネン・ネネムの伝記」を劇化したもので、アフリカの楽器と歌と踊りで構成され、それらが不思議な雰囲気をかもし出していて自然の奥深さをうまく表現している。
 脚本に劇団1980の藤田傳が参加していることもあり、お化けの国の話ながら現実も踏まえていて、セリフにはリアリティがある。
 飢饉での一家離散から始まる。しかし、賢治の飢饉体験は冒頭にわずかに表現されるだけだし、きびしいはずの現実もファンタジーのオブラードに包んだという作りだ。

 舞台のテンポは速く、たくさんの見所が詰め込まれている。
 歌と踊りはむろん、俳優によるアフリカの楽器の演奏や、やはり俳優によるアクロバットなど、これでもかと言わんばかりの趣向はボリュームたっぷりだ。十分に練り上げられていて、男6人、女6人の俳優の息もぴったり合っている。

 この作品では、賢治が書こうとしていた「ペンネンネンネンネン・ネネムの伝記」の続編までもストーリーに取り込んでしまっているのが、劇化にあたっての特徴と言えるだろう。原作にはない、サーカスの妹との再会や、お化けの国の天国にいた両親との再会までが描かれる。そして、「僕を食べて!」という自己犠牲の極致に到達するところまで描いている。
 しかし、この作品がそのようにグスコー・ブドリ的な自己犠牲まで取り込んでいるのは、賢治をおもんぱかり過ぎていて、書き込み過ぎてやや感興を削いでいるかなという気はする。

 夜の回のためもあろうか、客席は半分くらいの入りだ。早い人から順に座席券を取っていくやり方がアイディアだ。モギリなどに子どもが参加している。
 まったく子どもに媚びないこの作品を観る子どもたちの観劇態度は、おとなよりもいいくらいではりっぱだ。
 作品を、あまり大人向け、子ども向けと色分けする必要はないのかもしれない。「ライオンキング」は大人向けでも子ども向けでもない。優れたエンターテインメントはそういう区分を超えているとこれを観ていて思った。


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