風三等星スタイルともいうべき深刻にならないストーリー展開と、俳優の個性と個人芸を強調した演出で楽しませてくれる。生き生きした俳優の動きも魅力的だ。
そういう面では、福岡の演劇の水準を超えている作品ではある。
タイムトラベラー物だ。
1年前とトランシーバーで繋がったことにより、1年前に事故死した女性を助けようとする高村とその仲間と、歴史が変わってしまうことを阻止しようとするタイムパトロールとのバトルの話だ。
よくあるアイディアだが、話をうまく運んでいて納得できるレベルではある。
しかしなぜか、何か不足していて十分には迫ってこないという不満も残るのだ。
いちばんの不満は、まとまり過ぎていて却って印象が弱くなってしまったことではないだろうか。瑞々しさが跡を引かず、単純なという感じさえあるのは、中途半端な結末も原因しているように思う。
結末に向けて、自ら作った立ちはだかる壁に対してどう止揚しようとしたか。越えて行くか、穴を開けてでも通るかなど、やり方はいろいろあろうが、この作品ではいちばん肝心のところで逃げている。
生き返らせる代わりに、歴史は変えられないからタイムパトロールにするというのは、はぐらかしだ。エイクボーンの「ドアをあけると」のように、幸せな方向に積極的に歴史を変えてしまうという作品さえあるくらいだから、この作品、壁の前でUターンしてどうする。
さらにしつこく不満をいえば、人物の間の硬直した関係だろう。
登場人物はみな善人で、状況は変わっても人は変わることはない。だれも本心を本気でさらけだすことをしない。
それが広瀬戯曲の特徴かもしれないが、人物の幅が狭く互いに交叉せず、そのため展開が深まらないのではないかという気がする。
不満を並べ立てると大した作品ではないように映るがそうではなく、練り上げられているからこそ欠点が見え、それゆえの不満である。脚本のアイディアや個性的な俳優の演技による面白さを、さらにブラッシュアップする余地はあると思う。
初日のきょうはほぼ満席で、観客も沸いていた。