飛ぶ劇場の新作はテーマが 恋愛。この作品、テーマや構成もさることながら、ストーリーの語り口とデテールの面白さで見せる。
大学の映画研究会における三角関係とその最悪のパターンの破綻をとおして、真正面から恋愛を描く。
「表面から、やさしさ → 欲望×4 → 愛と深まる。やさしさのすぐ下は欲望の4重層」などといううがったセリフに納得させられたりする。しかし実際のストーリー展開は、「生身の恋愛はそんなに簡単には割り切れないぞ」と言わんばかりだ。
どうにもならない恋愛感情を、それぞれの人物の状況にうまく入れ込んで表現している。
恋人同士でありながらどんなことをしてでも前部長マサヤン自分の方に向かせようとする副部長千香の恋が軸になる。どう望んでも恋愛対象になることのない恋である、現部長アラジンに迫るツミちゃんの恋などをさりげなくからませる。
マサヤンは新人せきちゃんとも関係するが、それは必ずしも欲望のためばかりでもない。そのマサヤンの何ともいえないあいまいさまでを、実にうまく表現している。殺されて幽霊になってまでマサヤンとセックスしに来るせきちゃんに、単なる欲望を超えたものを重ね合わせる。千香の嫉妬は想像するに余りある深さだが、他の人に鞍替えする気もなく鬱積したものが殺人に向かわせるという、千香の理屈を超えた思いをうまく描いている。
セリフのないけっこう長いシーンで却って緊張を盛り上げるような、演出のレベルは高い。
舞台上方に映写される自主制作の映画と楽しめる。映画はもちろん舞台の内容とリンクしていて、観てみたいな と思っていた欲求が満たされる。
またそこには字幕も出て、そこではどっちかというと熱い舞台を冷ますような、じっくりと語りかけるような風情の短いことばが挿入される。
今回入団の木村健二と権藤昌弘について、どう変わるか期待していたが今ひとつという感じだ。
木村健二は役柄のせいもあるかもしれないが、入り込まないで最後にはそらすような演技に見える。軽さが災いしている。
権藤昌弘もやはり、役にフレキシブルには入り込まない。持ち味ともいえる硬さが残ったままなのが気になる。
この作品は、飛ぶ劇場15周年記念作品で、きょうの初日は300席のホールに若干の空席がある程度だった。