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《2002.5月−14》

古きよき時代の★叙情
【黄金色の夕暮 (俳優座)】

作:山田太一 演出:安田武
29日(水) 18:35〜20:45 ももちパレス 3100円


 ホロリとさせられたり、それなりには楽しんだけれど、やはり山田太一は甘いなぁというのがいちばんの印象だ。
 久しぶりの俳優座だが、この作品の舞台づくりは古きよき時代の叙情を強調しすぎていた。イデオロギッシュで硬質なこの劇団の伝統は今やなくなってしまったと思ったほうがよさそうだ。

 上司の命令で総会屋に不正融資した銀行支店長のところに家宅捜索が入る。それを担当した特捜検事は、自分の娘と支店長の息子のツーショット写真を見つけたことから、捜査を手加減しようとする。
 災難ともいうべき家宅捜査をきっかけに、互いの子どもどうしが知り合いであったというものすごい偶然を媒介として、家族が本音で語りだす。

 あまりに楽天的なあまりにさわやかな結末だ。支店長は自分の責任分の罪を背負うことを決心するが、家族の絆は回復する。子どもたちはほんとうの恋人どうしになるし、母の痴呆は直り、妻の存在感は増す。検事も破綻していた娘との関係を修復する。災い転じて福となして、めでたしめでたしの大団円だ。「夕暮」はやすらぎの象徴とさえ映る。
 あゝ、何たる甘ったるさだ。ちょっと考えれば、支店長は刑事事件の被告となり、懲戒免職となり、場合によっては服役し、家計は窮迫するはずなのに、そんな心配はどこ吹く風だ。
 そんなにも達観できるのだろうか。象徴的な夢物語にしては描き方がリアルだし、生活者の視点をここまで無視しているのは、ちょっと納得しがたい気がする。

 山田太一はむしろ、そのような現実遊離を意図していて、商業演劇の脚本のように書き込みすぎるほどしつこく書き込む。それにしても、痴呆だった母が弁舌を垂れるところまで行くのはやりすぎで白ける。
 不倫の楽しさとおぞましさを全面に押し出してインパクトがあったテレビドラマ「岸辺のアルバム」や「丘の上のひまわり」のファンの私としては、この甘さには不満が残る。
 そのような戯曲の甘ったるさを、演出はむしろ強調している。この際お涙頂戴でもいいや!と開き直っているように見える。極端とも思える演技で人の思いをえぐりだすところもある演出を、まあ素直に楽しめばいいのかもしれない。

 川口敦子が生き生きと支店長の妻を演じている。美人だが物静かで、どっちかというと陰気くさい女優だったのが、歳をとって陽性になり色気も強くなった。
 俳優座では若尾哲平などによって中堅・若手中心の公演ももたれているが、全国巡演となるとどうしても古手中心の公演になるのだろう。
 この舞台は、福岡市民劇場の5月例会作品だ。


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