福岡に本拠を置く劇団風の子九州と、韓国の劇団サダリによるこの作品は、多くのアイディアがシンプルに見えるまでに練り上げられていて、大いに楽しんだ。「子ども向け」という芝居は、基本的には存在しないのかもしれない。この芝居は、「子どもたちも観る」芝居といった方が正確だろう。
本編に入る前にある、プロローグ「出会い」と、続くコミュニケーション「通じ合い」では、若干の道具は使うが基本的には役者の身体で子どもの遊びを遊ぶ。人の頭をボールに見立てたパフォーマンスなど楽しい。
本編の「遊び心のハーモニー」は、宮沢賢治の「狼森と笊森、盗森」を原作とした、火山爆発の跡にできた川と三つの森の話で、自然との共生を謳う。
エピローグ「これから」は長く大きな棒からたらした布を使ってのパフォーマンスで、ダイナミックで色鮮やかだ。
「練り上げられている」ということばをこの感想集ではよく使っているが、具体的にはどういうことか、この作品に即して説明しておきたい。
「練り上げられている」というのは、たくさんのアイディアやコンテンツを積み上げたうえで、そこからよけいなものが削ぎ落とされていること、と考えている。十分に積み上げられていなければエネルギーが発生しないが、積み上げたものをそのまま提示されたのでは観客には消化不良だ。
この作品の企画・構成では、「自然との共生」をテーマに、自然がやさしいばかりではないことも語られるが、それでも共生が可能なことが語られる。セリフはシンプルだが、象徴的なものをうまく使っていて、内容は豊かだ。
演出については、表現の材料をかき集め、状況を強調するアイディアをうまく使う。簡潔な装置や、シンプルなお面などをうまく使って効果を上げている。
演技については、男3人、女3人の6人の俳優が若干のセリフと素朴な楽器による演奏で演じるが、幅広く集めた材料の中から最適なものを選び取っていて、表れたものはなんともすっきりしていてムダがない。ちょっとした動きに大きな意味をもたせた演技ができている。
福岡の劇作・演出のレベルは低いと散々述べてきた不満を撤回しなければならないような完成度だ。小さい子どもも皆、食い入るように舞台を観ている。
この作品は、きょうの公演を皮切りに、全国10ヶ所以上のホール公演、ソウルでの1ヶ月以上にわたる公演のほか、学校公演も予定されている。