福岡演劇の今トップへ 月インデックスへ 前ページへ 次ページへ


《2002.5月−16》

フォーカスしない演出★フォーカスしない演技
【石ころと五十円玉とカレーライス (ショーマンシップ)】

作:後藤香 演出:仲谷一志
31日(金) 19:40〜21:15 甘棠館Show劇場 2800円


 ブスなOLの話だ。明るく生きようとしている恵美子は、ミスブスコンテストで優勝して、美人の基準を変えるとして寵児となるが、その評価もすぐに移ろいもとの評価に。しかし恵美子は、さらに明るく生きていく。

 この作品の初演(1995年8月)を観ているのだが、そのことを忘れていた。今回の再演を観ても、「これは観たことがある」とさえ思わなかった。それでも何となく気になって帰って調べてみたら、保存しているチケットのなかにこの作品の初演のものを見つけた。
 初演当時はユニバーシアード福岡大会の開催中で、同じ月に観た劇団ビューネ・メフィスト公演「広島のかもめ」やキャラメル・ボックスの「また逢おうと竜馬は言った」は今でも印象的なシーンが眼に浮かぶのに、なぜかこの作品の初演の記憶がないのだ。
 それはなぜだろうか。今回の再演の印象を書いていけば、その理由が少しはわかるかもしれない。

 戯曲についていうと、魅力はそのことばが新鮮なことで、それはやや軽い切れ味のいい演技にフィットする。
 しかし、アイディアと思い入れはあるが突っ込みと構成力が弱いという後藤香の特徴はこの戯曲にも出ている。恵美子に対応して、性転換美女・真美を配するという抜群のアイディアも、突っ込みが弱いために生かしきれていない。ふたりの思いが対比したり交叉したりすれば、面白さは大幅に増そう。そのあたりの書き込みの弱さが、結末に向けてあいまいさを残し、インパクトが弱くなってしまった。

 そのような戯曲に演出と演技はどう取り組んでいたか。
 演出は、戯曲が意図しながら表現しきれていない部分を補完するどころか、だらだらと表面的にストーリーを追うばかりで、却って足を引っぱってしまった。
 この劇団は、演劇そのものの面白さを目標にしていないようなところがあり、私の観たいものとはやや異なる。本来の表現を忘れたようなくすぐりや客いじりがけっこう多いし、客に媚びるようなドタバタ調の演出や演技が多い。それはそれで楽しめはするから目くじらを立てることはないのかもしれないが、そういうところで勝負しようとする姑息さはあまり好きではない。
 作品が大味になるのは演出の甘さからきているが、それが劇団そのものの持ち味と思われるような状況は改善したがいい。

 ず〜っと気になっていたのは、この劇団のやはり大味な演技だ。
 今回の公演でも、例えば、男性社員3人、恵美子を除く女性社員3人については、役をくるりと入れ替えてもほとんど変わらないだろうと思われるほど、画一的で個性がない。
 しなやかさのない丸太んぼうのような演技を何とかしようとして、力の入った大げさなわざとらしい演技しかできなくなっているように見える。軽く弾むような表現や、じっくりと心情を押さえたさりげない表現ができないのは、俳優が戯曲を自分の頭で読みこなさず、自分の頭で考えた表現をしていないからだ。ひとりひとりの俳優が戯曲の読み取りをきちんとやるようになれば、演技の質は全く違ってくるだろう。

 結局以上の説明のように、押さえるべきところを押さえず、それらしきところで無理やり盛り上げて帳尻だけ合わせたという作品に見える。これが戯曲の欠点と併せ、印象が薄い理由だと思う。
 きょうの初日は前売りが売り切れで、当日券に並んでやっと入れた。
 観客の反応はいいが、ややよすぎるような気がする。


福岡演劇の今トップへ 月インデックスへ 前ページへ 次ページへ