福岡演劇の今トップへ 月インデックスへ 前ページへ 次ページへ


《2002.6月−3》

戯曲の読み取り○的確
【陽気な幽霊 (ばぁくぅ)】

作:ノエル・カワード 演出:佐藤順一
2日(日) 14:00〜16:10 アトリエ戯座 2000円


 大変面白く、大いに楽しんだ。
 演出も俳優も、戯曲の読み取りが的確であり、それをデテールにまでこだわってきちんと表現しきっており、レベルの高い舞台だ。オリジナルでないことを勘案しても、その創造性の高さは評価できる。

 霊媒を題材にした小説を書こうとした小説家チャールズが、霊媒師を呼んで実験したところ、7年前に死んだ妻エルビラの幽霊が戻ってきて、現在の妻ルースとの間にやきもち騒ぎがもちあがる。
 凡庸な劇作家が書いたら、エルビラに天国へ引き取ってもらってメデタシメデタシとなるところだろうが、この作品はそんなに単純ではない。状況の変わり方はぶっ飛んでいるが、それなりにリアリティを持たせるように書き込まれてはいる。
 上演中のためストーリーを書くのは差し控えるが、興味のある方は劇場に行くか、ノエル・カワードの戯曲集を読むか、デビッド・リーン監督の映画「陽気な幽霊」のビデオを見るかしていただきたい。

 演出はそれぞれの場面の状況をきっちりと押さえる。暗転の使い方がうまく、場面の変化とともに変わる状況をうまく表現している。
 装置にリアリティがあり、照明もいい。場面場面にあわせた衣装もいい。
 ドタバタには違いないが、ドタバタの表現のためには十分にプランが練り上げられていないとうまく決らないというのが観ていて納得できる。
 気になったのは、いかにも翻訳ですという台本と俳優のしゃべりだ。もっとこなれていいかと思う。

 前回の「浮気の終着駅」公演と同様に、青木あつこ、坪内陽子、中野弘子の3人の女優が魅力的だ。前回ははまり役と見えたが、今回もまったく個性の違う役をこれこそはまり役という演技で見せる。
 この作品では、見えない幽霊相手という技術的な面も必要だが、むしろ人物の思いを的確に表すことで、本音が現れて変わる状況をうまく形象化している。それはデテールにこだわらずにできるものではない。テンポのいいセリフをテンポよく運びながらそれをやってのけている。

 この作品は6月9日まで12ステージ。これだけの公演回数だと日程が選べて観客も楽だが、やる方にとってもやりがいがあるだろう。
 予約や劇場での対応で、観客への気配りが行き届いているのも気持ちいい。


福岡演劇の今トップへ 月インデックスへ 前ページへ 次ページへ