劇団092第5回公演の「TO−U」は、よくできた脚本と押し出しのいい演技と工夫された装置で、楽しめる舞台になっていた。
今は便利屋になった弁護士・高山が女から、姉がストーカーになったのを助けてくれるように依頼をうける。この姉妹とひとりの男をめぐる三角関係を軸に、高山の友人の社長とその妻と娘、事務所の調査員・織田とその恋人との関係がからんで物語りは進展する。
13人の登場人物というのは、このところ少人数の公演ばかり観ているせいかにぎやかでいい。脚本は幾組みかの愛をからませて、それらの人物をうまく動かしていた。
俳優の動きはややせわしいくらいでテンポよく見えるが、ストーリー展開は余裕をもってついていけるテンポだ。タレント養成所系の劇団ということもあるのだろうか、やや商業演劇的に脚本は観客が完全にわかるように書かれている。
織田が怪盗であるとか設定が現実離れのところはあるにしろ、個々の場面についての描き方はその中でひとつのことが露呈して状況がかわるところをわかりやすく描いていた。例えば、忍び込んだ織田と依頼人の姉とのマンションの一室での会話など微妙な心の動きまでよく表現している。
それぞれの俳優の見せ場がみごとにちりばめられ、全体の山場もうまく設定されていて、ホロリとさせてハッピーエンドだ。ペット的な感じでボケ役に殺し屋(実は害虫駆除屋)鳴海を配して舞台を多彩にしている。
俳優の演技もいい。
昨年の劇団ふわっとりんどばーぐ公演「東京ヤングHOTEL」に客演していた俳優(飯島律子、花田礼毅、堀川英樹)については、今回の方がじっくり演じているように見えたが、脚本がいいせいもあるだろう。
織田を演じた松本洋一がすっきりとした演技でなかなか魅力的だ。高山の山浦成一は生きがよすぎてややうわすべりか。
装置がなかなかいい。
舞台の前後で上下2段になっていて、上段は下手がバー、上手はフリー、下段は下手がマンションの部屋、上手が高山の事務所で、場面転換は照明の切り替えだけで実にスムーズだ。同時並行でふたつの場面をやるなど、なかなかうまい使い方もしていた。
この劇団は東京芸能教育アカデミー系列で、タレント志向らしい出演者が多い。
ギャグなどいろいろちりばめられているのに観客の反応が悪いのは、観客が出演者の家族中心のためかと見えた。カーテンコールがなかったが、この手の公演としては珍しい。
この公演はきょうから3日間6ステージで、きょうの夜の回はほぼ満席だった。