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《2002.6月−10》

おもしろさとは○どういうことだろう
【天神開拓史 2002年度最新版 (ギンギラ太陽'S)】

作・演出:大塚ムネト
15日(土) 18:05〜20:15 NTT夢天神ホール 3000円


 「天神開拓史 2002年度最新版」はNTT夢天神ホールに会場を移してキャパシティが少なくなったこともあり、チケット争奪戦が展開されていて、追加公演分も発売即完売だったという。きょうは当日券に並んだが、5人目でゲットした席はP列1番で、最後列のさらに後ろの上手の通路上の4席のうちのひとつだった。観にくくはないが、舞台全体と客席まで見渡せて客観的になりやすい席ではあった。

 その席から見ると、NTT夢天神ホールの客席はなぜかつっけんどんに見える。そこが上演開始とともに沸きに沸くのだ。
 今回もやはりおもしろくて舞台に引き込まれた。観客の増加はこの劇団のおもしろさを知っているリピーターの口コミによるところが大きいと聞くが、そのおもしろさとはどのようなものなのか考えてみたい。

 ギンギラ太陽'S のおもしろさは、ストーリー のおもしろさ、さらには かぶりもの による表現のおもしろさだろう。―― といっても、そこに福岡の他の劇団との圧倒的な差はあるにしろ、決定的な違いをいったことにはならないように思う。
 決定的な違いは、ネタのおもしろさとボリューム、骨太な突っ込みと切れ味、徹底したわかりやすさと、それらを全体として支えるサービス精神だと思う。

 オープニングの迫力ある映画でガ〜ンと一気に観客を芝居の世界に引っ張り込む。20世紀FOXの映画のオープニングを模した劇団タイトルから始まり、150億年前のビッグバンから説きおこして恐竜の世界から一気に天神まで降りてくる。
 ストーリーはタイムトラベラーもので、西鉄のシンボル・ソラリアデビルが西鉄創生期の昭和11年から昭和20年を生きる話だ。その本題に入る前にここ一年ばかりの福岡の流通界などの動きが盛り込まれたかなり多くのシーンがテンポよく演じられる。
 本題のストーリーは、岩田屋が西鉄と協力して天神にデパートを作る話がメインで、玉屋や松屋や国鉄などのエピソードがからむ。非常にわかりやすく書き込まれているうえに、泣き節ともいえるシーンをうまく配していて観客の心をつかむ。西鉄福岡駅になりかわったソラリアデビルと松屋レディスとの淡い思いを、現代にもどったソラリアデビルにさりげなく語らせるなど、タイムトラベラーものの常套的手法でググ〜ッとさせる。

 かぶりもの による表現について言えば、それぞれの俳優は堂々たる演技でかぶりものが俳優の演技を引き出しているように思えてならない。仮面ともメイクとも違う効果があるように思う。
 そのようなところに加えて、この舞台のおもしろさはとりあげるネタと舞台づくりのアイディアのボリュームによっている。それらによる突っ込みはもちろん、切れ味も相当なものだ。いくつのビルたちが登場するのだろう。そして、ビルたちそれぞれのエピソードを実にうまく組み合わせる。毎回300枚を超える取材カードがあればこそのボリュームだ。
 加えて、1人の俳優がいくつの役を演じるかわからないくらいで、早替わりの魅力も大きい。俳優は大変だろうが。

 この劇団を一人勝ち状態までもっていったいちばんの原動力は、表現したいことを徹底的に表現して提示することで観客満足度を高めているためだと思う。その徹底したサービス精神はみごとというしかない。


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