歌舞伎の多様さというか、黙阿弥の多様さを見せてくれる舞台だ。
曽我綉侠御所染 御所五郎蔵は、夫婦の情と横恋慕に金がからみ殺人にまで至るという壮絶な話だが、ストーリーはシンプルだ。そのシンプルなストーリーにしてはその構成は装飾的ともいえる強調に溢れている。
後半の陰惨さとの対照のためか、前半は奇異なくらい華やかさに作られている。そういう面では、世話物といわれてもそうかいなという印象さえある。
侠客・五郎蔵と侍・土右衛門が子分とともに火花を散らせる「出会い」は、花道と仮花道にずらりと勢ぞろいしての掛け合いが楽しい。
土右衛門が傾城となった五郎蔵の妻皐月に金を渡して離縁を迫る「縁切り」は、皐月の本心が五郎蔵に伝わらないもどかしさにハラハラして、次の場の悲劇が準備される。
心変わりを怒った五郎蔵は土右衛門と皐月を待ち伏せて皐月の身代わりの逢州を切り殺してしまう「殺し」は、陰惨さと華麗さが同居するという不思議な雰囲気だ。
この作品、陰惨さと華麗さが同居するというよりも、陰惨さを華麗に飾り立てたという感じだが、それが融合しているようにも見えそうでないようにも見えるというのが名作とされる理由かと思える。
そういう面から言うとそれなりに見せるには役者の技量が必要だが、五郎蔵の仁左衛門はやや鈍重で、序盤のカッコよさ、中盤のタメの演技、そして大詰めの爆発する演技をもっと極端に強調してもよかったような気がする。内から突き上げてくるものの歌舞伎らしい表現はあるが、カッコよさとギラギラを役者の演技がもっと際立たせてくれればよかった。