戯曲の解釈もその表現も非常に高く洗練されていながら、エネルギーに満ち溢れた舞台で、久々に本場のシェイクスピアを堪能した。
ロイヤル・シェイクスピア・カンパニー(RSC)はピーター・ブルック演出の「真夏の世の夢」以来けっこう観ている。
こちらが慣れてきたせいもあるかもしれないが、このところの「ロミオとジュリエット」や「マクベス」では少し完成度が落ちてきたかなという印象をもっていた。
初めてRSCを観た頃の、「真夏の世の夢」のファンタジーやトレバー・ナン演出の「冬物語」の清冽さには、この世のものとは思えないような感じさえ持った。この「ベニスの商人」は、そのレベルの高さでその頃のRSCの舞台を思い起こさせた。
「ベニスの商人」の解釈において、シャイロックに焦点を当てたり善人とするような舞台もこの頃は多い。この舞台もシャイロックに焦点を当てた舞台だが、その解釈と表現の深さは尋常ではない。
ユダヤ人へのベニスの人々の偏見・差別を、例えばシャイロックがいたぶられる時に唾を吐きかけられるところまでを描く。それも唾を吐く真似ではない。実際に多量の唾をシャイロックに憎憎しげに吐きかける。
法廷のシーン、借金を何倍にもして返すという好条件をすべて拒んで肉1ポンドにこだわり、アントニオの胸にナイフを突きつけるまでのシャイロックの思いはよくわかる。そこまで徹底した演出で描きこんでいる。
シャイロック役のイアン・バーソロミューは、その哀しみをしつこくじっくりと演じる。シャイロックに対応する善人のアントーニオやバサーニオも生き生きとしていていいのだが、それが軽薄に見えるほどのシャイロック像を作り上げた。
舞台づくりのセンスはいかにもRSCらしく洗練されている。背面に大きな壁があり、それに高さ4メートルもある扉が5つ。その開閉ですべてのシーンの背景を作る。大道具はソファと椅子くらいでシンプルだ。当然、場面転換は惚れ惚れするくらいスマートに運ばれる。鍛え上げられた俳優たちのムダのない動きにも惚れ惚れする。
英語のすばらしい発声を楽しむために、イヤホンによる通訳は使わない。だからセリフの内容はほとんど聞き取れないが、それでも舞台のエネルギーはビンビン伝わってきた。
きょうは満席で、柱影の席しか残っておらず若干見にくかった。
東京グローブ座はこの公演のあとのグローブ座カンパニー「ベニスの商人」公演を最後に7月末で閉鎖になる。プロデュース公演をやっている劇場がなくなるのはつらい。いろいろ楽しませてもらったことに感謝したい。