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《2002.12月−3》

談志のすごさ◎満喫
【高座50周年 立川談志 (西日本新聞社)】

構成:立川談志
6日(金) 19:00〜21:20 エルガーラホール 5000円


 いままで本格的に噺を聴いたことがなかった立川談志の高座を聴いて、その表現力のものすごさがわかった。テレビなどで見る軽薄とも見える押し出しのよさは、談志のほんの一面でしかないのがわかる。

 地のしゃべりと演じるしゃべりとの落差が大きい。
 第一部では漫談調のしゃべりと小話と短い落語。きょうは風邪で体調不十分のようでやや押さえ気味かなと思ったが、漫談調のしゃべりや小話では切れ味のいい毒舌が、すねたりあおったり馬鹿にしたりといった感じで語られる。それが落語になるとみごとに自然にものすごくリアル。
 第二部は1時間近い落語でリアルを通して人物の思いをみごと表出する。絶対に無理をしないという感じのしゃべりだけで人物の形象化をここまでやるのか!と感動してしまう。名人芸には違いないがそう感じさせない柔軟さ新鮮さがある。安定をとことん嫌う。

 第一部のはじめに談志は自分の芸を「時代の流れから孤立した芸」だといい、変な方向に流れていってしまった今の時代の芸を糾弾する。そしてその差を演じ分けて見せる。わざとらしいさでごまかそうとする今の時代の芸に比べて、談志はよけいなものを徹底的に削ぎ落としている。だからちょっとした動きやしゃべりに大きなインパクトがあるのだ。「静かな演劇」に通じるものがあるようにさえ思えた。
 小話は客のレベルを測っている風情で軽く流す。落語「短命」は人物ふたりの会話だけで手際よく進め、客の心をキュッとつかむ。

 第二部で笑志の落語「初天神」のあと登場した談志は、電車の時間だいじょうぶかなどと心配しながら「芝浜」を55分間たっぷりと演じてくれた。
 導入部は一見なげやりとも見えるような演じ方で、観客をじわりと落語の世界に連れ込む。前半は夫婦の微妙な心理的葛藤を、デフォルメや飾りをまったく排したしゃべりだけでみごとに表現する。
 後半は夫婦の思いの深さが真実が現れることで露呈してハッピーエンドだが、その思いは表現力は豊かだがどちらかというと淡々と演じられることでさらによく伝わる。表現の幅広さというのはこのようなものだと思う。

 この公演は1ステージだけ。8割くらいの入りだった。


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