*** 推 敲 中 ***
それなりには盛り上がるけれど、甘さが目立つ舞台だ。真実にあふれた引き込まれるシーンが一箇所もない。全体に構想倒れなのをなりふりかまわず盛り上げたと見えた。
劇中劇の「ロミオとジュリエット」とメインストーリーが絡まず、雑多な仕掛けも不発なのは、もともとの思いの弱さから来る構成力不足と、ノイズが多すぎる演出と演技のためだ。受けねらいではなく、もっとちゃんとした作品である必要がある。全国区をめざしてほしいが、このままでは道は遠い。
在日3世の兄妹の妹に日本人の恋人ができた。その恋の成就までを、兄妹の叔父の主宰する劇団が上演する劇中劇「ロミオとジュリエット」の翻案の進行も絡めて描く。帰化に反対だったという亡き父に言われて日本人との結婚に頑なに反対する兄も、その父がかって一家まとめて帰化申請し却下されたという事実を知って態度を変える。が、日本人の恋人の家族の冷淡さは放置されたままだ。
結婚して幸せになるための帰化と韓国人としてのアイデンティティの問題には突っ込まない。帰化が幸せというところに落ち着かせることで回避してしまったテーマの掘り起こし不足が中途半端の原因だ。
戯曲はけっこういびつだ。
直接行動の少なく、伝聞ばかりで進められるのが気になる。例えば、核となる哲也と久美子の愛の思いがふたりの瑞々しい言葉としては語られない。ソンホは「たくさん考えた」というが、何を考えたか語られない。
セリフが観念的でこなれていない。したがって人物が粗っぽくしか表現されず生きていない。
不自然さも気になる。何で兄と恋人が知り合いなのか。叔父は刺されているのになぜすぐ救急車を呼ばないのか、等々。手前勝手過ぎて現実味を殺している。
雑多なものが詰め込まれた結果、プラスの効果ばかりでないものが混在している。そのマイナス効果になっているものは整理する必要がある。
演出は小手先ばかりが目立つ。リアルさを求める気はないらしい。
第1幕の終わりに恋人同士が関係者の面前で抱き合うシーンがあるが不自然だし、抱き合わなければ思いが表現できないとも思えない。劇中劇を含むけっこうややこしい構成をうまく整理してはくれない。
演技については、メインキャストの演技の何という硬さ。その演技の幅の狭さはどうだ。軟らかい演技とはふざけ気味に人の頭をどつくようなことだと考えているふしがある。違うだろう、もっと繊細な表現ということだよ。すぐに逃げてしまってグッと押さえて引っ張り込む表現も弱い。そのような切れ味の悪さを見ると鍛錬不足は明らかだ。
出番は少ないが役にうまくはまった山下晶にむしろちゃんとした存在感がある。
そのように欠点だらけなのに何とか見せてしまうのは、音楽、照明などを総動員して情緒的に引き伸ばしているためだ。だがそのようなやり方は邪道だ。
装置は鉄パイプを組み合わせた2階建て構造で斬新。照明もいい。河原新一の前説は主旨不明で不要。考えが甘い。
この公演はきょうとあすで3ステージ。満席だった。