おもしろい戯曲をていねいに舞台化しており楽しめるが、なぜかドッとくるものがない。
目配りが行き届いていてデテールでは楽しめるのだが、それが全体的なおもしろさに繋がらないのがこの舞台の演出の欠点だ。
この「雨」は井上ひさしの戯曲のなかでも、「小林一茶」、「薮原検校」とともに最も好きなもののひとつだ。
江戸の 金物拾いの徳(辻萬長)が、失踪した羽前平畠藩の紅花の大問屋紅屋の主人・喜左衛門(辻萬長の二役)に生き写しで、喜左衛門の女房おたか(三田和代)の美貌に惹かれて喜左衛門になりきろうと必死の努力をする。それが成功して喜左衛門になりきった結果、喜左衛門が藩と結託してやった幕府への偽りの報告の責任をとっての死罪を押し付けられてしまう。
戯曲は、そのみごとなストーリー構成といろんな解釈を許す幅広さが特徴で、日本舞踊化までされている。
木村光一の演出は重い。
ていねいにデテールまでをリアルに表現することに情熱を傾けそれはある程度成功してはいるが、緩急がなくダラダラという印象はまぬがれない。例えば、幕開きの両国橋の橋の下にシーンではその場にしか登場しない人物も実にていねいに形象化されるが、却ってストーリーに絡む人物の重みを弱くしてしまった。
実はすべてが仕組まれていたことがわかるどんでん返しがじわっと来たのでは面白みは半減する。すっぱりと見せるにはもっと軽快なテンポがほしい。
重さが先に立った結果、キャスティングと併せ戯曲の持つユーモアも十分に表現されていない。
メインのキャスティングには不満が多い。
辻萬長は演出の鈍重さをさらに増進するような演技で、軽さとユーモアが不足しているのがほとんど致命的だ。三田和代には男をクラクラさせるようなはつらつとした色気が足りない。ずいぶん老けてしまったからそれもしかたないか。
できれば初演の名古屋章、木の実ナナで観たかった。名古屋章も老けたから、今ならベストのキャスティングは有薗芳記に秋山菜津子だろうか。
この舞台は福岡市民劇場の12月例会作品で、私が観たのは全11ステージの6ステージ目。夜の回が満席になることはないようで、この回も若干空席があった。