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《2003.6月−8》

清水さなえと奥村泰自がいい
【私と私/ある雪の日に −ドラマチックジャポン Aパート− (ふわっとりんどばぁぐ)】

作・演出:楠田青土/作・演出:阿久根知昭
8日(日) 13:00〜14:10 ぽんプラザホール 招待


 きょう観たAパートの2本もそれぞれに楽しめた。
 25分の放送劇がもとになっているので、複雑な構成はとれないのを、うまく工夫してクリアしていた。

 「私と私」(楠田青土 作・演出)は、自分のなかにふたつの人格を抱えたFカップ女性の話。マザコンの恋人に対しふたつの人格が現れて若干のゴタゴタがあって、結局は恋人の望みどおりふたつの人格を残すことでハッピーエンド。
 女(清水さなえ)の、ふたつの人格の切り替えの鮮やかさを見せる芝居だ。外見は髪を垂らすかかきあげるかの違いだけで、しとやかな女性とややはすっぱで豪胆な女性という極端なふたつの個性をうまく演じ分けていた。
 ただ全体的には、仕掛けとテンポに欠ける。仕掛けが単純すぎていまひとつ展開に欠け、ループしているかなという感じで、テンポの悪さになった。もう一段突っ込んだ発想があればなおよかった。

 「ある雪の日に」(阿久根知昭 作・演出)は、女性作家のところに訪ねてきた老婆の話。この作者はこの手の作品が好きなようだが、ここでは田舎者の老婆の奇矯な行動を、いかにもありそうだと思わせるほどにしつこく引き伸ばして、その部分で見せる。奇矯な行動の謎解きはラストに用意されている。
 老婆(奥村泰自)と作家(山田紅)のやりとりが楽しいし、老婆のやや大げさな演技でグイグイと引っぱっていく。そしてラストはホロリ。
 そのホロリだが、放送劇を読んだときは、「甘納豆」でよく母親と気がつくわ!? と思っていたが、最後にやっと気がつくところまでの作家の気持ちの動きをじっくりと描き、あまり不自然という感じはなかった。演出で練り上げた成果だろう。

 今回の公演でのふたりの作家についてふれる。
 楠田作品は想像していたよりまじめな印象で、もっとぶっ飛んでいい。でも、舞台劇への脚色も演出も今回が初めてのようだから、これで十分としなければならないのかも知れない。「RIVER OF SONS」のような福岡の他の劇作家にないセンスを伸ばしてくれれば、ひとつのジャンルを作りそうな気がする。
 阿久根作品では、私は、「観光・地獄めぐり」や「21子ちゃん」といったやや荒唐無稽なものが好きだが、今回の公演ではその方面は楠田作品にまかせて、ホロリ系ばかりになった。そこがちょっと残念で、ぶっ飛んだ阿久根作品も観てみたかった。今後は、荒唐無稽もホロリもシリアスもないまぜにした、一晩ものの作品を期待する。

 ふたりの作家の作品のオムニバス上演というこの企画は、質の高い作品が多く、生きのいい俳優の発掘もできて、成果があったのではないかと思う。
 このパートの最後のステージを観た。若干空きがある程度だった。


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