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《2003.6月−11》

痛切な愛を清冽に
【オルフェウス (デフ・パペットシアター・ひとみ)】

作・演出:庄崎隆志
14日(土) 19:00〜20:40 博多市民センターホール 2500円


 この舞台は、優雅だがゴテゴテしていない人形と、主役の少年以外は顔を隠した人間とで、オルフェとユリディスの愛を痛切に描いていた。
 ろう者中心の劇団で、音の世界がそれほど強調されないが、形象的には多彩な表現をシンプルと見えるまでによけいなものを取り去っていて、清冽な印象だった。

 ギリシア神話のオルフェとユリディス(この舞台では、オルフェウスとユウリデケ)の世界に、現代の少年が入りこむという構成をとる。
 金属バットで人を傷つけて自転車で逃げる少年が、逃げ込んだ美術館で見たオルフェウスの絵の中に吸い込まれ、オルフェウスの体に溶け込んで、いっしょに愛と死と再生を体験する。

 竪琴の名手オルフェウスは、美しい娘ユウリデケと出会い結婚する。しかし戦争が始まりオルフェウスは戦場へ。残されたユウリデケは蛇に咬まれて死ぬ。
 戻ってきたオルフェウスは悲嘆に暮れ、決心して冥界に行って、冥界の女王に妻を返してほしいと嘆願する。悲痛な竪琴の響きに心を動かされた女王は、後ろを振り返ってはならないという条件付きで妻を返してくれた。
 しかし、命がけの旅もあとわずかというところでオルフェウスは振り返ってしまう。妻は消え、さまようオルフェウス。それを何とかしようとした少年は、腕をもがれてしまう。オルフェウスの死とともに少年は現代にもどる。

 非常に静かなこともあって、前半は少したいくつした。人形、装置、照明は洗練されているが、ストーリー展開が遅いこともあって、洗練されているから却って心に引っかかってこないという感じだった。少年がオルフェウスに溶け込んだことを、オルフェウスの人形を操作させることによってわからせる。他の人形使いは顔を隠している。
 後半は、ストーリーも急展開し、多様な思いが一見さりげなく挿入される。メインの妻への思いに加え、オルフェウスの、戦争で人を殺して嘔吐する、戦争帰りの船を襲う龍に不安が募る、といった表現もていねいだ。それらはすべて動きで表現される。言葉がないのがちょっとつらい。ときどき「死の世界では愛しあえない!」といった言葉がやや解説的にスライドに映写される。

 この作品は、デフ・パペットシアター・ひとみの結成20周年記念作品で、福岡公演は、さいん・しあたー・かんぱにーの主催。きょう1ステージだけ。半分強の入りだった。
 この神話に関する舞台では、1967年に四季「オルフェとユリディス」(作:ジャン・アヌイ、演出:浅利慶太)を日生劇場で観ている。北大路欽也と草間靖子の主演で、痛切で印象的な舞台だった。あと映画では、「オルフェ」、「黒いオルフェ」と、けっこう見ていることに気がつく。


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