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《2003.6月−12》

都地みゆき の魅力たっぷり
【月隷の檻 (池田商会)】

作・演出:安倍祐馬
15日(日) 11:05〜12:05 テアトルはこざき 1000円


 見応えがあって、おもしろかった。
 この劇団のいままでの傾向とまったく違う、しかもけっこうすごい作品をきちんと作っていた。

 昭和初期の、作家とその妻の話。
 書けなくなった作家が狂気に陥り、ついには妻を殺してしまう。
 各場は5分から15分で、全6場をテンポよく進める。

 リアルな装置のなか、岸田國士の世界のような始まりかただ。
 そのまま生活の機微を描いてもいいようにさえあるところを、スランプに陥り追い込まれた作家が、無意識にプレッシャーから逃れるようともうひとつの世界を持つという狂気に陥る。現実の世界ももうひとつの世界もそれぞれにリアルに表現されている。狂気そのものも、照明による若干の強調とストップモーションを使うくらいで、ガンガンと極端には表現されていない。
 しかし、狂気はむしろリアルに表現されることで却ってはっきりわかるというところまで挑戦していて、それはある程度成功していた。

 そういう面では作家の瀧本雄一もいいが、妻の都地みゆきがとても魅力的だ。すっきりとしていていかにも作家の妻という感じがよく出ている。しとやかだったりサバサバだったり、満ち足りていたり不安だったりと、各場でかなり違った微妙な演技が求められるが、まったく自然に演じていていい。
 狭いテアトルはこざきにリアルな舞台装置が作ってあってびっくりした。中央に狭い庭、正面に雨戸2枚、庭の左右に部屋。庭には土だ入れてあって雑草が生えている。3日かかったというその装置が生きた。

 池田商会がこんな楷書の舞台も作れることがわかったのがおもしろかった。ちゃんとしたデッサン力があることを示した。これがあってこそ、この対極にあるスラップスティック・コメディも生きてくるだろう。
 この公演はAパート3ステージ、Bパート2ステージの計5ステージで、私が観たのはAパートだった。観客は約20人だった。


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