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《2003.6月−15》

単調さを拒否するみごとな構成
【太陽まであと一歩 (キャラメルボックス)】

作・演出:成井豊
20日(金) 19:05〜21:05 メルパルクホール福岡 3600円


 いかにもキャラメルボックスという舞台だ。
 前回観た「アンフォーゲッタブル」は、やや硬派がかっていてすこし難解なところもあったから、この公演はとてもわかりやすく思え、本来のキャラメルボックスという感じがする。しかし仔細に見ていけば、表面の心地よさの下に隠れてしたたかな表現がある。それが舞台に厚みを出している。

 単調さを拒否するみごとな構成だ。
 映画の画面を通して、過去に映画のストーリーを変えるために行くその映画を監督した兄と、その兄を連れ戻しに行く弟の話だ。画面を通して兄弟が行った世界が、映画が描いた23年前の現実世界だったということから、かなり荒唐無稽なタイムワープものではあるが、現代も過去もていねいに生き生きと描くことで、それぞれ信じられる世界にまで練り上げ、それをしつこいほどに交錯させている。
 兄は、自分の作品を修正する必要があったために命を賭してまで魂を映画のなかに入れ込み、小学6年生の過去にいる。弟は兄をその世界から連れ戻すために、映画を通して過去に行く。そこには、母、兄とともに小学5年生の自分もいて、浮気した父親のもとを出て母の実家に帰ってきたところだ。過去の世界にはドイツレストラン経営の祖母、叔父や母に恋する兄の担任の先生など、現在の世界には兄の妻と弟を慕う女などがいる。
 過去に入り込んだ人物が過去を変えたり、映画を通して現在と過去がコミュニケーションしたりだが、SFチックなところはなく、徹底的に真正面から表現する。

 この劇団は、自分が見たいものを作るというが、見ていて実に心地いいのだ。
 その心地よさはどう作られるかというと、人物それぞれの思いをからめ、テンポとテクニカルで手際よく進めることにある。
 テンポについては、簡潔なセリフときびきびした動きで、例えば、弟が過去に行って兄と会うまでわずか20分強というでスピーディな展開だ。舞台から目を離せない。
 テクニカル面では、いつもながら照明と音響がいい。盛り上げるところでは派手な照明と大音響だが、不自然さを感じないのは、観客の心の動きをみごとに計算しつくしていて逆らわないためだ。

 母は父親のもとに戻ったために苦労して50歳の若さで死んだ。兄は離婚に反対して母が父のもとに帰った原因を自分が作ったことを悔いてている。それを修正することが過去に行った目的だった。
 しかし、母子と担任の先生で見に行った映画「クレーマークレーマー」が転換点となって弟の父親への意識が強く顕われ、弟は孤独に沈む。それを助けるために母子が父親のもとに帰るというストーリーに変わる。
 「クレーマークレーマー」がいかにもで臭いが、ここで主眼は弟の孤独に移り、それを救済するため元の鞘におさまることになる。

 構成がみごとだというのは、どう終わらせても矛盾は残るが、重点の置き方を変転させて、人物の多様な思いをうまく照らし出していることだ。大きくいえば、兄が弟の孤独を理解する物語といえる。ただ、人物がみんな素直でいい人すぎるような気はする。
 そして結末まで行けなかったストーリーを抱えながら、ハッピーエンドっぽく終わる。やさしく幸せな気持ちにはなるが、割り切れない気持ちも残る。それも余韻として計算のうちだろう。そういう卓抜さを感じる。

 この舞台はきょうプレビューで、本公演はあす、あさってで3ステージ。あさってはこの舞台の全国ツアーの千秋楽で、スカイパーフェクTV!&So−netで生中継され、東京の読売ホールでクローズド・サーキットも開催される。
 メルパルクホールは声が割れて聞き取りにくい。どの公演でもそれを感じる。
 プレビュー公演は廉いのがいい。事前申し込みをしたが、当日券も売っていた。若干あきがある程度だった。


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