今月の博多座大歌舞伎は「歌舞伎400年、四代目尾上松緑襲名披露」となっており、夜の部には襲名披露の口上がつく。
世話物の「らくだ」がおもしろかった。
「西郷とお玉」(池田大伍・作、久保田万太郎・奈河彰輔・演出)は、西郷隆盛のエピソードを題材とする新歌舞伎。上演時間は1時間10分。
幕府の役人に命をねらわれて、なじみの、京都の揚屋の仲居・お玉(富十郎)のところに逃げ込んだ西郷隆盛(吉右衛門)。勤皇派の西郷は藩主に嫌われ失意のどん底、西郷に心酔するお玉も将来を悲観して心中しようとまでするが、藩論が勤皇に決まったという吉報が届く。
富十郎の痒いところに手が届くような繊細な演技がいい。リアルな演技だ。ふたりの話をじっくりと聞かせる。
「口上」は型どおり、幹部俳優12人と松緑本人が一言づつあいさつする。約15分。
「土蜘蛛」(新古典劇十種の内)は、源頼光が土蜘蛛の精を討つ話。約1時間20分。 前半は、僧に化けて病気の頼光(菊五郎)のもとに乗り込んできた土蜘蛛(松緑)との争い。後半は、頼光の命令で土蜘蛛退治に行った5人が土蜘蛛を退治する。
能舞台を模した舞台に赤い毛氈の2段のひな壇。下には能の楽器の演奏者が7人、上には地謡7人に三味線7人。
アイ狂言まで取り込んでいていいのだが、舞踊劇ということもあり、ドラマが踊りに逃げて行ってややたいくつした。この作品も「紅葉狩」と同じように最後の10分間のためにある作品に見えたが、それは私が踊りの楽しみ方がよくわかっていないということだろうか。
「らくだ」(岡鬼太郎・作、榎本滋民・演出)は、落語から取った話で、「眠駱駝物語(ねむるがらくだものがたり)」と副題がついている。約50分。
駱駝の馬太郎が河豚の毒にあたって急死。友達の半次(富十郎)は葬式を出すための酒と料理を大家に出させようと画策し、屑屋の久六(團十郎)とともに馬太郎の死体にカンカンノウを躍らせてまんまと酒をせしめる。その酒を飲んだ久六が豹変する。
富十郎と團十郎のやり取りが、内容はばかばかしいにもかかわらず、非常に自然な演技で引き込まれてしまう。荒事の専門家・團十郎のこんなやわらかいユーモアたっぷりの役を初めて観た。こんな演技もできることにびっくりしてしまった。
今回の披露は、二代目辰之助が四代目松緑を襲名したこと。二代目辰之助時代はよく現代劇にも出ていたがこのごろはないように思う。
四代目松緑の祖父の二代目松緑は、日生劇場でのシェイクスピア劇に主演したりしていた。勘三郎や梅幸などとともになつかしい役者だ。「松緑芸話」などの著書もある。
生きがいい四代目松緑がどんな役者になっていくか、楽しみだ。