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《2003.6月−24》

下松勝人の世界はけっこう心地いい
【戦場のピクニック (小耳プロジェクト)】

作:アラバール、演出:下松勝人
29日(日) 19:05〜20:20 カンターレ 1500円


 ほんとうに久しぶりに下松勝人演出作品を観た。楽しめた。
 この人の、ハイテンションで押しまくるスタイルの演出を生で観るのは初めてだ。せまい空間で展開される熱っぽい舞台だった。力だけで押しまくっているいるように見えるが、実はしたたかな計算があり、それがうまくはまってすっきりした後味だ。

 今回の公演は二部構成。
 第一部 詩の朗読「東方の三詩人」は、三人の詩人の自作詩の朗読で、上演時間は約35分。
 上野ゆたか は4つの詩をあまり抑揚をつけずに静かに朗読した。「フエナバイラ」(間違っているかもしれない)というマドリッドのフラメンコバーの少女の話が聴かせる。「最後の世界」は 9.11 を通して世界の滅亡、さらには ネクスト・ワールド を見つめる。
 皆川裕子 は、「おれはおこっちょる」(題名ではないかもしれない)。「おれはおこっちょる」と、日常から自己の再構築までの人間の尊厳を見つめる。
 森耕 は、いいようのないパフォーマンス。ストッキングをかぶってその上からガムテープをぐるぐる巻きし、手にはラウドスピーカー、背中にリュック。観客席で空き地を探し、観客にマイクをつきつける。あと、リュックからグラスを出してカウンター(会場はバー)に並べ、ひとつのコップのなかにミニタオルで包んだ電気かみそりをスイッチオンして入れる。動いている電気かみそりの入ったグラスに水を注ぐ。ちょっとショック。詩らしきものはグラスをいじりながらとラストに少しだけ。
 私は「詩のボクシング」がきらいだが、朗読を聴くのはわるくない。こんなもんでしょ、という感じだ。

 第二部 演劇「戦場のピクニック」(作:アラバール、演出:下松勝人)は、戦争している兵士のところに父母がピクニックに来るという話で、上演時間は約25分。
 ぶっ飛んでいるが寓話で終わらせない説得力もあるという作品を、真正面からごく素直に取り組んだという舞台だ。その素直さは、この空間のヒザつき合わせた人間の温かみがあればこそ出せるのではないか。あるいは逆に、そのような空間での上演のためにこの作品が選ばれたということか。
 舞台は2.5m×2.5mくらいで、客席も同じような広さ。舞台上にはダブルベッドくらいの広さの台があり、そこが戦場。
 戦場の雰囲気は幕開き後わずか表現されるだけで、すぐにピクニックの父母が登場し、戦場は相対化され続ける。敵の捕虜サダムもピクニックに巻き込み、一緒にワインを飲みダンスまでするが・・・。
 たたみかけるようなテンポのいい演出で、形にこだわらず等身大の人物をそのままごく近い舞台に置く。セリフは自然さや繊細さよりも、いかに勢いをつけて骨太に前方に押し出すかを意識したというしゃべりだ。それがせまい空間で反響し熱気となってこもる。
 俳優はそれぞれにいいが、特に母親役の 田崎ちょこ が魅力的だ。父親役の 渡辺ハンキン浩二 も勢いのある演技で見せる。

 この舞台はきょう2ステージの予定だったのが、急遽21:00からの追加公演が決まったようだった。私の観た回の観客は50人近くだろうか、超満員だった。
 この作品を機に、下松勝人が演劇に全面復帰してくれれば楽しみもふえる。


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