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《2003.7月−1》

軽いながらも鮮明な印象
【ピーピングトムの失踪 (非・売れ線系ビーナス)】

作・演出:田坂哲郎
6日(日) 18:05〜19:30 甘棠館Show劇場 1200円


 田坂哲郎の作品は、軽い持ち味で、うまい構成とセリフの切れもあってなかなかおもしろい。
 構成的に今回は、遣隋使の世界と、現代の覗き部屋の世界を交錯させた舞台で、時間の転換とそれに付随する人物の変わり身のおもしろさも出ていて楽しめた。

 覗き部屋の夕鶴の様子を無線中継する与ひょう。夕鶴は与ひょうにお金を渡し、そのお金を叔父の惣どがたかりにくる。
 もうひとつの世界。隋の国に渡って、皇帝・煬帝の愛妾・夕鶴を、聖徳太子が所望だからと日本に連れ帰ってくる小野妹子。推古天皇、聖徳太子、小野妹子、ハイセイセイ(隋の高官でスパイ)の愛憎と権力争いが、夕鶴の織る「栄えの布」という織物とからんで展開する。

 田坂哲郎の前作「況わんや、百年振りの粗捜し」(劇団バキューンカンパニー)はぶっ飛んだストーリーでおもしろかったが、この作品ではさらに構成のおもしろさが出ていた。
 現代の場面では与ひょうの「覗き」が、古代の場面では夕鶴の「覗かれ」が核になる。現代の場面では、「覗き」の実況中継―それも、実は見えないのに想像で実況中継する、などというアイディアはいい。
 古代の場面。煬帝の仕掛けた罠「更なる栄えの布」が実は「滅びの布」で、日本つぶしの策略。そのあたりも、やや軽いとはいえ、アイディアはいい。夕鶴は、妹子との愛を貫くためにハイセイセイを篭絡し、「滅びの布」を織る。

 古代と現代のふたつの世界の転換はみごとだ。
 俳優は夕鶴を除けばひとりがいくつもの役を演じる。それが舞台で一瞬に別の世界に飛び別の人物になる。飛ぶとき、短いストップモーションだけで暗転もしない。それでも十分わかる。手際いい。
 そして、与ひょうの「覗き」と夕鶴の「覗かれ」が、現代と古代のふたつの世界が交叉する。与ひょうが覗いていたのは、叔父・惣どと母(夕鶴の同時二役)のセックス、それは妹子の見た聖徳太子に蹂躙される夕鶴。この一瞬のためにこの芝居はある。

 安易なイメージ借りを始め、どっちかというと一見ふざけているかと思えるような軽さで、陳腐なクスグリも多いが、骨格がしっかりしていて破綻しないで最後まで見せる。だた軽さばかりを狙わないで、もう少しメリハリをつけてもいい。若いのに老成することはない。
 この舞台は、非・売れ線系ビーナス第一回公演で、きょう2ステージ。満席だった。


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