グレコローマンスタイルの芝居がだんだんおもしろくなってきた。変な力みが少なくなった。
人をきちんと見つめようとする傾向が強くなった脚本の変化に加えて、演技や演出を無理にエキセントリックにする傾向も改善されていて、見やすくなり、見応えも出てきていた。
「感情表出セミナー」に来た 那智海星 がまちがって「自殺志願者セミナー」に行ってしまうことから、ふたつのセミナーの人物がふれあい変化していくという話。
「感情表出セミナー」には、笑えない、怒れない、泣けないという3人が自主学習。その3人が、来るはずの 那智海星 を探しに行く。そして、「自殺志願者セミナー」を受講している彼を探し出すのだが、彼を説得するなかで感情表出者と自殺志願者の生き様が語られてお互いに癒しあい、互いに立ち直る。
脚本はそれぞれの人物の思いにていねいに迫る。
それぞれの人物のトラウマまでさかのぼり、まったく逆の性向をもつセミナーの人物が本音を出し合うことで互いに相手を変えていくところがきちんと描けていた。欲をいえば、やや語りすぎで、抽象的なことばの使いすぎが気にはなる。そのためかなり鈍重という印象をまぬがれないが今はそれでもいい。その思いの強さを評価する。
演出もうまく工夫している。
舞台はセミナー室で、正面にドアがふたつ。左のドアからは「感情表出セミナー」、右のドアからは「自殺志願者セミナー」。ふたつの空間がいっしょに存在するという演出もおもしろい。違和感よりもいい効果のほうが大きく、場面転換も省けて進行も手際いい。発想がきっちりし、デテールに込められたアイディアも充実してきた。
人物の形象や関係もうまく表現できていたが、前半、展開が止まって突然おもしろくなくなるところがあったのが気になった。そのあたり、もう少し観客の心の動きを考えたほうがいい。
この舞台、全体的には若干の不自然さやぎこちなさは残るが、突っ込まない逃げのスマートさや、本筋とかけ離れたとっぴな表現よりはどれだけいいかしれない。
俳優もそれぞれにいい。
若手では前作に引き続き、小林民治、小柳有紀 がきちんと役を捉えてメリハリのある演技で見せる。田原明日香 は自殺志願の女の変化をみごとに演じていた。草野千裕 は雰囲気はいいが、ややうわすべりなのが惜しい。もう一発じぶんの演技を突き放して見られるようになれば、もっとよくなる。
この舞台は4ステージ。私の見た回は若干空席があった。