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《2003.7月−5》

和製ミュージカルの欠点があらわ
【天翔ける風に 野田秀樹「贋作・罪と罰」より (TSミュージカルファンデーション)】

原作:野田秀樹 構成・演出・振付:謝珠栄
16日(月) 18:30〜21:20 福岡市民会館 招待券


 和製ミュージカルのおもしろくなさが典型的に出ていて、白けながら観ていたが、最後の30分はそれまでとはまったく違うドラマの質の高さで、引き込まれた。
 最後の30分のためにそれまでがあるという印象だが、それがよくない。はじめからその質の高さがないのが問題なのだ。

 江戸開成所の女塾生・三条英の金貸しの老婆殺しと、彼女の倒幕の理想とをからめて、目的は手段を浄化するのか、というテーマを描く。
 害を実行に移し、偶然そこに居合わせた老婆の妹までも殺してしまう英。捜査の担当刑事・都司之介は、英に対して疑惑の目を向け、英も都の執拗な心理作戦と戦い続ける。
 時は幕末の真っ只中、無血革命を目指す英の思い人・坂本竜馬。竜馬をめぐり、志士たちやその背後で暗躍するニヒリスト溜水石右衛門、それに死んだはずの英の父が暗躍する。
 革命は成功し、真実を語って入獄していた英は釈放されるのだが、竜馬は殺されてしまう。

 典型的な和製ミュージカルで、歌のあいだドラマの進行がピタリと止まってしまうのがもどかしい。結局、丁々発止のやりとりはすべてストレートプレイ部分でやられる。歌は単なる心情吐露だけで、歌がドラマをはらむことはない。ダンスは形だけで、歌よりもさらにドラマをはらまない。
 そんなふうで当然にテンポはとろいから、野田秀樹の原作の発想にはとてもついていけないし、そのおもしろさも引き出せていない。

 背後の幕末の雰囲気のための「ええじゃないか」などのダンスのボテボテにはかなり白ける。ザラザラとした印象しかないのは、力=熱 と思い込んだ演出のためだ。力を込めれば熱が表現できるということはない。赤い旗を振りまわし、多勢の俳優が舞台中を駆けまわっても、はらむドラマがなければ白けるだけだ。演技もおおざっぱで、歌もダンスもグイとひきつけられるレベルにないからなおさらだ。

 それが、最後の30分、突然に変わる。
 英は解放(再生)されるが、竜馬の死で、ふたりは結ばれることはない。竜馬の死を知らず歌う英の希望の歌は、無残な竜馬の死体を舞台に置いた演出で、歌が心情吐露以上のものになっている。
 舞台からけっこう遠い席だったが、きちんとドラマのあるシーンは舞台の緊張感がちゃんと伝わる。単眼鏡を覗くのも忘れて身を乗り出している自分に気づく。

 この舞台はきのうときょうで2ステージ。きょうはかなり空席が目立った。観客は圧倒的に若い女性が多い。


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