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《2003.7月−7》

磨いて見えてくる脚本の不自然さもある
【アスナロ (ふわっとりんどばあぐ)】

作・演出:純友秋久
19日(土) 15:05〜16:30 青年センター3階 招待


 「アスナロ」を観るのはこれで4回目だ。
 松尾優夏・楢崎千春の出演でも2回目で、演出も演技もずいぶん練り上げられてきた。だがそのことが、この脚本で作者の筆が撥ねた部分をはっきりさせてきたのがおもしろかった。それでもあえて、脚本を改定せずに上演しているのもおもしろい。

 一年前に死んだ男を愛したふたりの女、義理の妹と恋人。そのふたりのバトルから理解までをじっくりと見せる。
 ふたりが反発から徐々に理解しあっていく過程は、ふたりの心の動きを実にていねいに押さえている。ふたりの女優の演技もいい。松尾優夏の瞳から大粒の涙がボタリと畳の上に落ちる。

 そのように評価はするが、ここでは作者の筆が撥ねた部分を見ていこう。
 前の感想で書いていた、兄の就職の話と、恋人の経歴を知りながら妹が話さなかった話について考える。
 大会社の重役が株主の息子を落としたくらいでわざわざ断りにくるか、だが、ごくさりげなく話させることで逃げた。それでも若干ひっかかる。
 恋人の経歴を知りながら妹が話さなかったことも、やはり「フェアじゃないから」とさりげなく話させることで逃げた。これも納得しがたい。
 それでもこのふたつは、まああえて深追いするまでもないだろう。

 もっと気になるのが、両親の死後に財産を親戚に掠め取られたこと、そして妹がわざわざ兄の恋人を追っかけて小樽までも行くこと。
 両親の死後に財産を親戚に掠め取られ、子どもの住む家まで人手に渡っているとは、民法を持ち出すまでもなくちょっと納得がいかない。状況つくりに無理やり合わせていて、現実感が乏しい。
 ラスト、妹はなぜせっかく決まった就職を蹴ってまでして、兄の恋人を追っかけて小樽まで行くのだろうか。これは作者が無理にドラマを盛り上げようとしているとしか思えない。今はよくても、これからのことを考えるとこのふたりどうするんだろうと思ってしまい、とても最良の選択とは思えない。

 述べたようなところで筆が撥ねて、手近なおもしろさに流れているように思った。まあ、理想とする芝居が人によって異なるから、見解の相違ということだろうが、気になったところを述べた。
 この舞台は、青年センターのくうきプロジェクト ワンコインシアター 第三弾で、きょう2ステージ。昼の回は40人くらいの観客だった。


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