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《2003.7月−8》

迫力の立体怪談
【貞水・夢之助 納涼二人会 (鳥栖市文化事業協会)】

構成:鳥栖市文化事業協会
19日(土) 18:30〜21:05 鳥栖市民文化会館大ホール 3000円


 講談を生で聴く機会は少ない。きょうは、一龍斎貞水の講談が聴きたくて鳥栖まで行った。さすが人間国宝、講談の楽しさをたっぷりとあじあわせてくれた。

 「納涼二人会」と名づけられたこの公演は、落語2席と曲独楽と講談。
 まずはじめに、桂米二郎の落語「初天神」。まくらの寄席の客の話は約10分とくどいが、落語はきっちりしている。米丸の弟子だから新作しかやらないのかと思っていたら、違った。約25分。
 つぎが、三増紋之助の曲独楽。小手調べから始まり、輪抜け、刃渡り、羽子板、綱渡り、風車のいつもの芸に、達者でユーモアあふれるいつものしゃべり。客を舞台に上げて手伝わせたり、風車では客席に降りたりとサービスたっぷりで、ごく気軽に和ませ楽しませる。15分強。

 つづく三笑亭夢之助の落語はまくらばっかり。30分弱。
 そのまくら、延々と落語の笑いの解説で、それがけっこうおもしろい。いわく、800のネタがある落語で、笑わせるパターンには5つしかない。それは、しゃれ、ナンセンス、ジョーク、ユーモア、そしてウィット。しゃれは落ちが近くにあり、ナンセンスは遠くにある。ジョークは落ちが中心より遠く、ユーモアは中心に近い。ウィットは落ちの切れと冴えが勝負。それぞれを実演しながら解説してくれるので、よくわかる。話のうまい人は、この5つを入れ替えながら話しているので飽きがこないのだという。なるほど。
 で、肝心の新作落語は、神(紙)の話で、わずか3分というのも人を食っている。この人、テレビの人気者でもあるせいか、知っているような気になるところをうまく利用できるから得だ。

 一龍斎貞水の講談は、「怪談累(かさね)物語」。約1時間。
 まくらで、幽霊とお化けと妖怪変化の違いの解説。それが約10分。
 本題。ヨエモンの後妻・おきよは、夫に疎まれたくないために片目でビッコのわが子を川で殺す。それがはじまりで、ふたりのあいだに生まれた累(るい)は、片目でビッコになる。その累は、行き倒れの男を助け、夫婦になり、男は二代目ヨエモンを名乗る。だが彼は妻を疎んじるようになり、川で妻を殺してしまう。あとは、幽霊の復讐談。

 貞水は、まくらのふつうのしゃべりもけっこう迫力のある声だが、話に入ったら声の迫力はまくらの比ではなく、腹にドンと響くような迫力がある。こんな声の迫力、どこかで聴いたことがあると思っていたら、そうだ、説経節だと思い当たった。まさに説経の発声そのものなのだ。
 そしてそれは当たり前のことなのだ。というのは、講談はまさに説経節なのだ。関山和夫「仏教と民間芸能」には、「明治時代末期、講談師である元仏教の講師(説教者のこと)が、得意に此釈迦御一代を演じて各寄席に於て大入喝采を博したことがあった。これは『説教すなわち講談』ということを意味している。『怪談累物語』(貞水)も説教そのものである。」とある。この「累」は、四谷怪談や、三遊亭圓朝の「真景累ヶ淵(しんけいかさねがふち)」の元となった怪談だ。

 「立体怪談」と銘うたれていて、舞台の演台のまわりにはやや気味の悪い障子やちょうちんに、卒塔婆に見たてた竹を立てた墓場もある。照明の効果もありけっこう恐ろしいが、果ては障子を破って幽霊が現われ、客席をねり歩く。芝居ががっていて、その語りとともに迫力がある。

 この公演、1ステージだけで、1500人の会場に300人くらいの観客だ。
 S席をローソンチケットで買ったが、前から4列目の右から2席目で、ひどい席だ。講談では肝心の舞台効果が見えはしない。こんな席をS席とする主催者もひどいが、そんな席を平気で売るローソンチケットもひどい。中央付近に空席がいっぱいあるというのも腹が立った。チケットの恨みはおそろしいことを、主催者もチケット業者も少しは考えてもらわないと困る。


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