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《2003.7月−12》

発想のワンパターンにうんざり
【探偵小説ができるまで (風三等星)】

作・演出:広瀬健太郎
16日(土) 14:05〜16:10 ぽんプラザホール 1500円


 この劇団の「できるまで」シリーズは、その基本となる発想がワンパターンで、ストーリーも演出のアイディアも単調極まりなくて、その創造性のなさがわかってしまう。
 そんなふうだから俳優は力をもてあましていて、そのエネルギーが空元気になって変な方向に噴出するから、それが雑音になってしまっている。どうがんばってもがらんどうは満たしようがないから、演技で何とかしようなどとしないほうがいい。

 明智小五郎に可愛がられた少年探偵団の小林少年も今は青年となっていて、しがない車のセールスマン。そこに怪人二十面相から保険会社の中村を通して、大金持ちの懐中時計を盗むという挑戦状がくる。かっての仲間と新人の三人でそれをこなし、小林は探偵として明智の助力がなくてもやっていけるという自信を取り戻していく。
 その話に、それを書いている若い女性作家・みさきと、その兄・偉、編集者・徳丸などがからみ、みさきの作家としての自立を重ねる。舞台はふたつの話が交錯しながら進む、といういつものパターンだ。

 書かれる側を考えてみよう。
 大金持ちの家に何の策もなく乗り込む小林たち。そう、策がないのは脚本家だ。だから、全体を仕掛けたのが中村で、彼は実は明智や小林の活躍でコケにされた刑事の息子だった。復讐のためだ。二十面相はどこに行ってしまったんだろう。
 そのようなストーリーのつまらなさもさることながら、時間稼ぎのくだらんギャグのごときものの連発で、展開をみごとに止める。というよりも展開すべき内容がないのだ。暗号などのアイディアもあまりに安易で、バカバカしくて白ける。
 そんなふうで、開演してからずーっとイントロばかりで、本題に入らないもどかしさにイライラする。

 書く側のことはどうだろうか。
 みさきが厳格な兄に、作家として自立するためにOLをやめたことを認めてもらうというという話だが、原稿がなくなったりと陳腐で都合のいい話ばかりだ。くだらんドタバタばかりに見えるのは、本筋に関わりのない意味のないものが平気で挿入されること。それを俳優は汗だくで演じる。それほどのものではない。ちゃんと整理したがいい。
 書かれる側と書く側の、そんなつまらないものが交錯しても、何も新しいものは出てこない。

 この劇団の演劇は、ひと昔前の小劇場のファンタジー系の演劇のスタイルで、そこから一歩も抜け切れっていない。それも似ているのは形だけで、この舞台の思いは浅くて薄っぺらだ。だからスタイルもワンパターンになる。まず内容を充実し、変な盛り上げを考えないことだ。そうすればスタイルも変わってくる。
 この舞台は3日間5ステージ。満席だった。


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