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《2003.7月−14》

定番もののおもしろさはやや古臭い
【I Do! I Do! (翔企画)】

作:トム・ジョーンズ 音楽:ハーベイ・シュミット 演出:山田和也
27日(日) 13:35〜16:10 ももちパレス 3100円


 出演者がふたりだけのミュージカルで、かなり甘いところが、よく言えば心温まる、悪く言えば中途半端といえる舞台だ。
 その甘さは、はじめからねらって書いた厳しさのないストーリーに加えて、演出と演技の魅力が薄いためで、ミュージカルとしての作品の出来はそれほどよくない。

 物語は、アメリカのある中流階級の生活を夫婦を中心に書いたもの。「I Do! I Do!」とは、新郎新婦が教会で牧師の前で言う誓いの言葉だ。
 1幕は、マイケルとアグネスの結婚式のシーンから始まり、結婚初夜の初々しさ、出産の喜び、子供の成長、夫の浮気など様々な出来事を経て、中年にさしかかるところまで。
 2幕は、子供達の結婚が決まり、巣立っていった後、二人きりの生活に戻った老夫婦が、「結婚とはいいものだ」と歌い上げ、二人だけでは広すぎる家から小さな家に引っ越していく。

 この作品は、この前まで何十年のロングランを続けていた超定番もの『ファンタスティックス』のトム・ジョーンズ(台本)、ハーベイ・シュミット(音楽)のコンビによるミュージカルで、初演は1966年。日本では、1969年に越路吹雪・平幹二朗のコンビで初演、その後、何度か上演されているやはり定番ものといえるミュージカルだ。
 定番ものの強みはわかりやすさだが、そのため若干の甘さがつきまとう。例えば夫の浮気もアッという間に修復される。乗り越える障害が単純で低いのはこのような作品ではしかたのないことかもしれない。歌にドラマを孕ませることの萌芽は見えるが、まだまだ歌は心情吐露から出ない。

 その分弱くなる切れ味は、演出よりも俳優の演技の魅力に負うことになるが、その俳優が弱い。そのため初々しいところが少なく、ときめかない。形だけに終始し、形を越えた俳優の魅力の噴出がないためだ。
 マイケルの 村井国夫 は、歌はまあまあだがダンスの印象がない。この作品がミュージカルらしくないの原因のひとつだ。アグネスの 春風ひとみ もどっちかというと守勢にまわり、無難にまとめることばかり考えていて挑戦的なところがない。
 歌の部分が際立っていて、それがコンパクトなストレートプレイとうまく連携すればいいのだが、演出も演技もそこまでは至らない。そういう基本的なところが不十分で、年齢を重ねていることを表すメークや、ふたりのサックスとヴァイオリンの演奏などの小手先だけに力が入ってしまった。そういうところだけを楽しめ、というのは酷だ。

 この舞台は福岡市民劇場7月例会作品で、福岡では9日間11ステージ。日曜日のマチネーのため超満員だった。


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