劇団ラッパ屋の鈴木聡の脚本による新作落語「ナンパジジィ」が期待どおり面白かった。久々の花緑だが、いちだんと表現が豊かになったように思った。
第一部は古典楽語「明烏」。まくらも入れて約1時間。
まくらは、台風のためにきのう福岡入りした話。飛行機のなかのあわてぶりを仔細に観察していて、それを絶妙のしゃべりで笑わせる。それで15分。あと、落語の話。フジテレビの「ポンキッキ」という番組で子どもに落語をやらせた話。落語を聴くということは、しぐさだけを見て情景を想像する想像力が大切だと、具体的な動きで説明してくれる。客から言えば、きちんと想像させる表現も大事だ。そんな話でさらに15分。
落語は「明烏」。超堅物の井筒屋の若旦那・時次郎が、源兵衛、清八とともに、お稲荷参りに行くといって吉原に行くという話。吉原を稲荷と言いくるめるところが聞かせどころだ。それはすべて井筒屋の主人のさしがねで、一夜明けるや時次郎は大夫浦里とねんごろになってしまっていた。
花緑は人物の描き分けが実に的確で、人物の魅力をうまく引き出す。ここでは茶屋の仲居頭を骨太に表現する。
第二部は新作落語「ナンパジジィ」。約1時間。
まくらで祖父・小さんの人物のおもしろさを10分弱。そこから、「ナンパジジィ」にするりと入る。
82歳の大山勘太郎、散歩の途中で入ったカフェで、親切にしてくれたバイトの娘に惚れてしまい勝手に「あゆ」という名をつける。孫の拓也に思いを告げに行かせると、こともあろうに あゆ と拓也はできてしまう。あやまりに来た あゆ は、好きな人が大阪にいると言って、拓也の借りていたレンタカーHONDAのFITで逃げる。それを勘太郎のぽん友の車・オペルオメガで追いかける勘太郎と拓也。清水で見つけ三人で民宿に泊まり勘太郎は あゆ と露天風呂に入る。翌日大阪まで行き、あゆ の恋人哲ちゃんに告白させて、ふたりは東京に帰る。そして勘太郎の死。葬式に あゆ が来ていた。そして あゆ は鎌倉・材木座の海岸へ行き、サーフィンしている勘太郎(の幽霊)に哲ちゃんに妻子がいたことを告げる。
ロードムービーの展開だが、昔風のじいさんと今風の若者の人物が実によく、それをうまくからませる。それぞれのしゃべりの言葉も切れがあって魅力的だ。
そのしゃべりだが、勘太郎の あゆ への思いの表現が抜群にいい。それをあえてそらさない あゆ のやさしさもうまく表現している。フリーターの拓也の心情の表現なども細やかだ。だから、それぞれの人の思いがよくわかる。
ここでもおせっかいな民宿の女主人を骨太に描く。話が大阪に行けば、花緑は大阪弁をみごとに話す。そういうことに加え、弱々しく指す人差し指をしながら「ETか!」などという小さなセリフの積み重ねでも聞かせる。きめ細かい。そのようなていねいな作りが、しっとりとした風情まで感じさせる。満足した。
このイベントはこの1ステージだけ。1000人入る国際会議場メインホールに観客は半分以下だろうか。最前列の席で間近に見られたのでよかった。