福岡発の新しいミュージカル作品としてこの舞台には期待した。
オリジナルのミュージカル作品に取り組む姿勢はいいし、この舞台にかける意気込みも伝わってはきたが、固定観念にとらわれすぎていて、ストーリーも人物も歌もダンスも類型的で、できばえとしては問題点が多すぎる舞台だった。
次回以降にどう期待するかも含めて、その問題点を見ていこう。
ニューヨークでミュージカルスターを目指すビリーとルーシーのふたり。新聞に取り上げられオーディションを受ける機会を得て、ルーシーは合格するがビリーは落ちてしまう。
しかしルーシーは病気になり舞台を断念、ビリーは新しい挑戦を続ける。
まず失望したのが、作品がバックステージものであること。作る側の視野の狭さを象徴していて、私としてはこれだけで30%の減点だ。
脚本はかなり陳腐だ。大事なところでまったく歌とダンスがからまないというのは、ミュージカルの脚本とはいえまい。
ストーリーもセリフも大時代がかっている。人物の造形も薄っぺらだ。ニューヨークに人のいい怪盗団がいる? 籠を持った洗濯屋さんがいる? 荒唐無稽な手前勝手さだ。
ルーシーは何で都合よく病気になるの? そのようなストーリー上の逃げが友情も愛も中途半端にしてしまい、反目も和解も弱すぎてインパクトがない。あるのは甘ったるいお涙ちょうだいばかりだ。
ニューヨークは福岡ではない。竹の定規とかテレクラでのバイトとか、日本のというか、福岡の自分のまわりの生活を引きずりすぎているんじゃないか。調査不足で想像力不足だ。
そんなふうで、とても、ほんとうに歌やダンスが好きな、本気でエンターテイナーを目指す人の世界を捉えきれているとは思えず、人物にも魅力を感じない。
演出は、何でもかんでも見せてやれと、よけいなところばかりに力が入っている。ごった煮になってしまった。ライブハウスのシーンなどのとってつけたようなシーンが、舞台の流れをパタリと止める。にぎやかならばいいというものではない。
オープニングの全員のダンスのあまりのバラバラさに驚き、そのあとも意図的に作られ必然性に乏しい大人数のシーンにはかなり違和感があった。
キャストは、主役ふたりの歌、ダンス、芝居が弱く、あまりにうそっぽくなってしまった。脇役の俳優のほうが魅力的で、ちゃんとしたキャスティングができているとも思えない。
歌は出演している歌手がずば抜けている。俳優の歌はかなりひどく、歌手の歌との落差が大きい。演技はベテランの俳優を別にすれば、子役のほうが圧倒的にいい。この子役、歌もいい。
状況説明ばかりの歌詞から考えれば、曲はよくできている。生演奏されるのもいい。
ダンスは振付に切れ味がなく、全体的にピリッとしない。
照明、音響はまあまあだが、衣装のセンスがよくないのが気になった。
このごろ覚えた「アート」と「コマーシャル」という区分けをすれば、この舞台の俳優は「まず有名になりたい」すなわち「コマーシャル」を目ざしているように思う。「まず踊りたい」というのが「アート」だが、そのような気持ちで鍛錬を重ねている人はあまりいないように見えた。
終幕近く、わずかに想いが顕われたかと思ったら、それをよしとばかりそのままあわてて大団円。もうひと工夫あってもいい。
この舞台はミュージカルメイツ・プラニングの第一回公演で、2日間5ステージ。ラストステージを観た。超満員だった。