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《2003.8月−9》

2作同時上演の不幸
【カズクン、旅に出る (飛ぶ劇場)】

作・演出:泊篤志
23日(土) 18:05〜20:05 北九州芸術劇場・小劇場 2500円


 この舞台単独で観ればそれなりにおもしろいのだろうけれど、「生態系カズクン」のすぐあとに観たのでは、その内容の薄さが見えてしまう。一対の作品として個性を際立たせるつもりの2作品同時上演だろうが、この作品にとっては不幸だったかもしれない。
 全般的にガナリ声のセリフが多かったことが、ドラマの質の悪さを象徴していた。ガナリ声は、そこで感情が発散されてしまい、セリフが絡まず、ドラマを感じさせない。
 終盤近くに「生態系カズクン」と結びつけることで何とか持ち直したと思われるような部分もあったが、それはとてもオーソドックスなやり方とは思えない。

 「カズクン、旅に出る」という題名から、ロードムービー的な展開かと思いきや、「旅に出る」とは、「この世を去る」こと。
 カズクン の死までの10年間が、人間の世界としてではなくて、動物の世界として描かれる。そこは、擬人化された動物たちの恋模様の世界。三角関係は常態化しており、いくつものカップルがくっついては離れていく。
 カズクンの恋人・ジョニー が、イモクイ猪・ラー にそそのかされて、ハマベ象の足を傷つけてしまったことが最大の不幸で、ジョニーは3年間の所払いとなる。3年後帰ってきた ジョニー は、ヒロポンというメスの猫似を連れていた。ショックでカズクンは記憶喪失。それでも三角関係は続くが、麦山家の祖母の死の翌日、カズクン も ジョニー とともに死ぬ。

 舞台の上で時が過ぎていき、相互の関係がはっきりしてくると、それぞれの人物の思いはよくわかってくる。
 しかしその人物の関係は、U字型の引っ掛け金具ががっちりと絡むような力強さがなく、大味なものになってしまった。そのような弱みをカバーしようとする大声でのやりとりは、ドラマの弱さから来る焦りの結果と見えた。
 例えば、「くされ猫似!」、「くされウンコ!」などと、舞台の人物が興奮すればするほど、見ているほうは白ける。このようなシーンは、この劇団の舞台では見たことがない。
 全部で10曲近く挿入される歌も、変なハイテンションに呑み込まれてしまって、いまひとつピリッとしない。この劇団にしては珍しい、いっこうに本題に入らないもどかしさ、フォーカスしないシーンが続く。

 終盤近くになってから、舞台は少し変わる。ジョニーの優柔不断さも含めた恋愛関係の猥雑さに耐えられない カズクン の、生きることの不安定さ、逃げ場のなさが、見ているわが身にもこたえる。
 しかしこのことも、祖母の死と重ね合わせ、ジョニー を不条理にも道連れにすることで、カズクンに救いを与える。しかしそれは、問題をすべてつぎの世界へ先送りしてしまったにすぎない。そのような終わり方だ。

 「生態系カズクン」をひっくり返しての、にぎやかな、というコンセプトに足をすくわれてしまったか、肝心のドラマが弱かったのが不満だった。
 苦心惨憺の俳優のなかでは、内山ナオミ と 花田優子 に存在感があった。
 装置は「生態系カズクン」と同じ。中央舞台の下から登場するというような演出は楽しめた。

 この舞台は「生態系カズクン」と同じく、きょうから31日まで6ステージ。
 若干空席があった。


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