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《2003.8月−12》

しっとりしながら、すがすがしい舞台
【それを夢と知らない (太陽族)】

作・演出:岩崎正裕
30日(土) 14:05〜16:05 西鉄ホール 招待


 劇団太陽族は、じっくりとした芝居を見せてくれる。
 オーソドックスというかやや地味に見える作りながら、清新さや激しさなどの人々の思いがみごとに表現される。

 一週間前の市議選で落選した平山。野球のユニホームを着て、きょう閉館の映画館のロビーで妹が出てくるのを待っている。
 その平山を核に、映画館の息子の野々村と妻の加世、友だちの津由子、妹の悦子とその恋人の高橋などがからみ、平山にとっての選挙後の虚脱感と敗北感のなか、映画館の閉館というほろ苦いさびしさをからませる。
 平山の選挙に入れあげて夫との間がギクシャクしている津由子と平山の関係がどうなるかとか、AV女優である悦子とその恋人の高橋を平山は受け入れられるのかとか、興味を繋ぐ人間関係もたっぷりで、グングン引っ張りこまれていく。

 人物の思いを引っぱり出すための状況設定が巧みで、人物もごく普通の人ながらみごとな個性の組み合わせで存在感たっぷりだ。
 あふれ出る思いは何も王侯貴族ではなくてもそれなりに高貴で、分かりあえたりあきらめたりというごく日常的な心の動きそのものが十分なドラマであることをみごとに示している。静かな演劇に見られるような抑えた表現が却って繊細な心の動きを際立たせ、しかもじっくりした風情まである。
 グイと食い込むセリフが効果的だ。一歩踏み込んだセリフが、しゃべっている人のみならず、相手も観客もドキッとさせる。それが効果的にうまく何回も使われる。それは、他の人が弱めて受けたり、うっちゃらかして空にかき消したりだが、えぐったところはちゃんと定着していく。これがドラマが清新と見える理由だ。
 そのための伏線の張り方、選挙ダルマなどの小道具の使い方の工夫されていていい。

 演技は、「こういう人、いるいる!」と思わせられるレベル。人物の個性をみごとに表現する。そんなレベルだからこそ、その人の思いに同調・共鳴できる。いかにもそれらしくてキャスティングがバッチリと見えるけれど、それは俳優の演技の幅広さがあればこそだろう。女優のスタイルのよさにも驚く。
 オープニングや場面の切れ目で挿入される、映画のシーンを舞台に作るシーンも楽しい。そういうところで舞台の楽しさを増幅する。

 この舞台は1998年の初演で、今回は再演。
 福岡ではきのうときょうの2ステージ。きょうは7割くらいの入りだった。もっと多くの人に観てほしいと思う。


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