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《2003.9月−7》

いびつな配役が削ぐ活気
【アンネの日記 (民藝)】

脚本:フランシス・グッドリッチ/アルバート・ハケット 演出:丹野郁弓
15日(月・祝) 13:35〜16:15 ももちパレス 3100円


 劇団民藝の定番ものともいえる作品だが、今回の丹野郁弓演出のよる「アンネの日記」は、練り上げられた伝統に加えた新演出の冴えはいちおう楽しめた。
 しかし俳優の年齢が高く、中堅俳優の不在と若手の弱体化は否めず、その演技に対しては不満が大きい。

 プロローグとエピローグは第二次世界大戦後の1945年。その三年前から2年間のアンネ一家らの隠れ家生活が描かれる。極限状況におかれた13歳の少女の目を通して、戦時下におけるユダヤ人の生き様とアンネの初々しい感性が、狭い世界のなかでの反目やエゴや相互理解を通して描かれる。
 狭い隠れ家に暮らすのは、アンネ一家が4人、ファンダーン一家が3人、そして歯科医のデュッセルさんの計8人。クレイマンさんとミープさんがめんどうを見てくれる。
 きびしくなる状況に耐えて明るく生き、恋までするアンネだが、終戦わずかまえに全員つかまり収容所に送られ、アンネの父・オットー・フランクだけが戦後まで生きのびる。

 1955年に劇化された脚本は、実によくできている。
 戦況などの外的状況の変化に対応する、隠れている人たちの心理状態の変化をきっちりと描き、そのような厳しさのなかでのアンネの成長は、適切なエピソードを通してよくわかる。恐怖に怯えながらの生活だからこそ、その大切さ、いとおしさがいっそうわかる。

 演出は、そのようななかでも生き抜いていく意欲を失わない若者の「希望」を強調する。
 アンネとペーターとの間も、単なる淡い恋というのではなくて、はっきりと生き抜く力としての「恋」を打ちだした。そのことで彼らは、自由への強い希望を持つ。
 その自由の象徴が、2階の室外に掲げられている自転車。ユダヤ人は自転車に乗ることを禁じられているのだ。その自転車の後方に、上空から光が射しこむ窓がある。

 キャストはまさにこの劇団の状況をみごとに反映している。
 老齢の奈良岡朋子がテンション高くさえ見えるのは、中年の役を老年の俳優が演じるパワー不足に加え、若い俳優の演技の単調さが原因している。そのような演技のエネルギー不足がみずみずしさを殺してしまった。アンネにほとばしり出るような初々しさがないし、姉・マルゴもペーターもなぜか茫洋とした印象でピリッとしない。
 そういう面では、この劇団の財産であるこの演目も、いつまで上演できるのかと心配になってくる。その解決は、表現方法を変革して劇団そのものの勢いをとり戻すことしかないだろう。

 この舞台は福岡市民劇場の9月例会作品で、9月9日(火)から18日(木)まで11ステージ。
 12日の台風の影響できょう観るという人が増えたようで、立ち見の人がビッシリで超満員だった。
 会場で「九演連四十年史」という冊子を売っていたので買った。苦闘の労演時代から市民劇場の今日の隆盛に至る、観客組織としての「運動論」がまとめられている。


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