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《2003.9月−9》

ファルスにならない弱さ
【指輪なリンリン (アクト21)】

作:日下部信 演出:花畑満開
22日(月) 19:30〜21:05 甘棠館Show劇場 1500円


 ファルスを目ざしているように見えるが、正当なファルスには遠い舞台だ。
 脚本も演出も演技も、テンポとメリハリに欠ける。生臭いところにみごとにふたをしてしまうくらいなら、もっと他愛ないドタバタでもいい。中途半端なところに不満が残った。

 結婚相談所が舞台。  結婚相談所に娘・奈津美を探しにきた教師・高山賢治は、そこの会員でそこでアルバイトをしているかっての教え子・青木朋子に会って淡い恋心を抱く。その朋子は、結婚相談所長の蓮見とできている。高山と会ったことで、朋子は蓮見と別れる決心をする。
 その話のための重要な小道具が指輪。その指輪は、奈津美に言い寄っている福山雅治のプレゼントのための指輪で、朋子が選んでやったもの。それを福山が落としてしまい、蓮見が見つけ福山に戻し、それを奈津美にプレゼントしたが、奈津美はそれを父・高山に朋子にプレゼントするようにと渡し、高山は朋子にプレゼントする―というように繋がる。これは最初に指輪のアイディアがあって、それに無理やりストーリーをくっつけたという不自然さがある。高山が朋子への気持ちを表すのに、娘からもらった指輪をプレゼントするだろうか。そうは思えない、もっと別なことをするはずだ。

 そんな風で、本筋がいっこうに深まらず、単純で単調だがノイズだらけという舞台になった。
 脚本は、状況設定も人物も薄っぺらだ。会話もどうでもいい話題が多くピリッとしない。セリフがおもしろくないから人物が際立たないのか、人物に魅力がないからセリフが耳にとどかないのかを考えると、まずきちんとしたセリフで人物をきっちりと描くことが基本だ。
 せっかく絡んできたかなと思ったらプツンと切れる展開が多いのも気になる。高山に魅かれた朋子は蓮見からさっと身を引くが、蓮見はわかったようなゴタクを並べるだけで朋子を逃したくない気持ちはまったく淡白。こんな達観したようなおもしろみのない人間がなぜ登場するのだろう。生々しさは敵でこの脚本はそんなものは目ざしていないよ、という脚本だが、その生々しいところまで踏み込んで、さらにはそれさえも笑い飛ばすような勢いがほしい。

 演出はそのような脚本の欠点を補正しようとはしない。淡々とポッチポッチとマイペースで展開する。大事なこととどうでもいいことの区分けがあいまいで、あらわれたセリフに即物的に反応するばかりで、人物の意識の流れを捉えようとはしない。ポイントとなる朋子の決心は、そのときまで伏線らしきものもなく、意味がわからない。あとでセリフで説明されて、そうだったんだ、というんじゃあんまりだろう。
 演技もうわすべりで、相手ときちんとは絡まない。だから人物の印象も中途半端になってしまった。そんななかで 中河原友香 が朋子を魅力的に表現していた。

 この舞台は劇団アクト21の第13回公演で、劇団としては3年ぶりの公演ということだ。きょうとあすで3ステージ。満席のため立ち見だった。
 この劇団の公演では、私の友人だった故 岩坂博 氏が演出した第9回公演「ザ・シェルター」(1995年11月)を観ている。そのころのことを思い出した。


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