ヴェルディ作曲のオペラ「アイーダ」は、三角関係を描いた壮絶な愛の物語だ。
その三角関係の当事者である アイーダ と ラダメス と アムネリス は、互いの愛と威信にかけて譲らず、結局何もかもぶち壊し、死によって成就される アイーダ と ラダメス の愛も含めて、何もかもが悲劇に終わる。そのようなエジプト一国を賭けた愛の激しさを生々しく描く。
アイーダ と ラダメス の愛に徹底的に対峙し、無理にでも ラダメス を奪おうとするアムネリス の存在感がこの舞台のポイントだが、アムネリス を演じる ガブリエラ・ポペスク(メゾ・ソプラノ)はその堂々たる体つきからして迫力だ。
アイーダ役のアニータ・バーダー(ソプラノ)は、それほど派手ではないが、じっくりと聴かせる。エジプト将軍ラダメス役のヴォルフガング・ミルグラム(テノール)は、落ち着いていて情熱を内に秘める。
オペラは歌詞の繰り返しも多くゆっくりとした進行だが、時に怒涛のごとくに急テンポの展開をやってのける。第2幕あるいは第3幕の終わりのそれぞれの思いがぶつかる三重唱など、もう息をもつかせぬという迫力で、そのような緩急のつけ方はみごとだ。
出演者は歌手だし演劇的な細かい動きなどないかと思いきや、ピッと振り返る動きの速さなど、演劇的な素養も感じさせる。
引越し公演といえば舞台装置が売り物の公演も多いが、この公演は簡潔な装置だ。それらしいのは第2幕第2場のテーベの城門前くらいで、あとは装置らしい装置はない。それが斬新だった。旅公演用というわけではないと思う。
雰囲気は、背景いっぱいに描かれるファラオの図像やスフィンクスの写真が作り出す。かれらの眼が、舞台を後ろからじ〜っと見つづけている。後ろから見られることで舞台全体が相対化される。そのあたりの演出はおもしろい効果を上げている。
地元エキストラや地元合唱団でたくさんの福岡の人が舞台に立っている。けっこう出番が長いし、兵士役など動きも多い役もあるのをきちんとこなしていた。旗手役の 山下晶 のダイナミックな動きがなかなかよかった。
指揮は、同歌劇場常任指揮者で劇場付作曲家の天沼裕子。じっくりと聴かせる。
この公演は1ステージ。満員だった。