密度の薄さに、知力の三分の一も働かせておれば十分、という舞台だ。
創っているほうはそれなりにおもしろいのかもしれないが、観ているほうはたまらない。
三部構成のオムニバスだ。
オープニング、スモークのなかに白い服の巨人が現れてびっくりするが、インパクトがあったのはそこだけ。
第一部「6時15分発福岡行き13便」は、記憶喪失者・トオルの自分探しの話。イメージの恋人・カオルや母親からの福岡発福岡行きの航空券で別の世界へ。そこには3人の妻たちがいるが、それは映画の撮影という作られた世界。気がつけばスーツケースのなかからカオルの声、しかし暗転して実はトオルがスーツケースの中にいる。そこまで約30分。
第二部「レンタルマチオコ」は、レンタルした女王様あるいは娘の話。3人の男は女王様・マチコの指示で死んでしまう。家に帰ったマチコは父を誘惑し、母は父を刺す―が、目くらになった父と母は、レンタルバックしたマチコは刺激的だったとしみじみと話す。約25分。
第三部「株式会社メガヘルツ」は、月の波動に同調して人が揺れるという職場の話。月の王子やムーンリバーを歌う女などみんな揺れる。約15分。
その内容に、だから何なの?と言いたくなる。ストーリーが希薄で、断片的なイメージだけだから、ストーリーを書いてもしかたがない。
この舞台、創る当事者自身がどうしたいのかわからず、思いつきばかりを並べた。形式にとらわれる必要はないが、この舞台では思いつきを大きな流れにからめずに、そのままヤミクモに使うので、印象が発散してしまった。
そのような原則無視をやるならやるで、それに見合った表現方法が模索されているかというと、それはなされない。状況が大きく飛ぶならば、飛んだ瞬間にその状況を一瞬にして表現できる強靭さが演技にあればいいが、平凡すぎる演技でとてもそんな力はない。演出もよく見ると一本調子で、不条理さをリアルに見せる仕掛けなどほとんど実現できていないし、アプローチする発想があるかさえ疑わしい。この舞台の空疎さは、そのような甘さが原因している。
それにしてもこの内容で入場料2500円はコストパフォーマンスが悪すぎる。
この舞台はAPA*APAの旗揚げ公演で、きのうときょうで3ステージ。主宰の橋田安寸男は東京在住。きょうのマチネは若干空席があった。