福岡演劇の今トップへ 月インデックスへ 前ページへ 次ページへ


《2003.11月−8》

戯曲自作努力の成果とうまく絡んだ演出
【ハレルヤ! (GIGA)】

作:宮原清美 演出:山田恵理香
14日(金) 19:40〜21:30 甘棠館Show劇場 1500円


 この一晩もののオリジナル作品は、大きな構想を充たす表現も多彩で、若干の欠点はあるにしろ、見応えがあって楽しめた。
 この劇団が取り組んできた劇団員自らが脚本を書くことの成果に、2年ぶりに戻ってきた山田恵理香の演出がうまく結びついた。

 舞台は「ハシエンダ」という小さな島国。
 この島には10年に一度の「卦の日」に、「言えなかった言葉、伝えられなかった思い」が災いとなって襲ってくる。それに対応するのに、シャーマン「アカルミ」に少女の生贄が要る。「アカルミ」は生贄を食べることで厄災を回避するのだ。
 迫りくる「卦の日」を前に、少女・アキチを生贄にして「卦の日」を乗り切ろうとする長老・シュリ・エトクに対して、10年前の生贄の少女の兄・ショーン:ライダーは、生贄をやめさせようとして暗躍する。

 脚本は、大きな構想が大きく変転するところを、速いテンポで進める。
 構想の基本となっているアイディアに、対応する人物をきちんと配して、その変転をうまく押さえた。運命の日に向かって興味を引きつけ、緊張を高めていくやり方もいい。
 人物はやや類型的で、言葉はときに冗長なところもあるが、それでもそれぞれの人の思いはわかるように語られる。

 そのような脚本を演出は、表現を多彩にすることで幅と深みを出そうと試みる。
 表現の多彩さは、照明、音響、音楽を駆使して、舞台を目いっぱい使ったイメージを、ダイナミックに変幻させる。空間的にも時間的にも、目配りが効いている。
 俳優は、そのような脚本と演出に応えて生き生きと演じているのはいい。

 そのようないい舞台成果ではあるが、いくつか気になることもある。
 述べたようによくできた脚本ではあるが、クライマックスの「卦の日」の緊張感が弱いのが惜しい。それには「アカルミ」の記憶喪失が原因している。記憶喪失というサブストーリーに飛んで多言を費やしたことが、却って印象を発散させて緊張感をなくしてしまった。ストーリーも言葉も刈り込めば、さらなる強靭さが出た。
 演出では、突然ショーン:ライダー(菊沢将憲)が大地(下坂真澄)の演技指導を始めるのが気になった。というのは、せっかくの大きな構想が、俳優の地を離れない演技のために表現できていないという不満を、開幕してず〜っと感じさせられるからだ。その演技指導のシーンの地と役との落差のなさから、そのような不満の原因が俳優の演技の弱さにあることをはっきりと認識できて、正直がっかりする。
 ここはまず、俳優は自分の地を完全に消して、役とともに大きな構想のなかを生きることこそ必要ではないか。ちゃんとその覚悟をして、逃げるべきではない。

 ほめる言葉が淡白すぎたかな、とちょっと反省。気になること、には、今後への期待を思い切り込めたつもり。いずれにしろ、地力がついてきたのは確かだ。
 この舞台は、きょうとあすで3ステージ。満席だった。


福岡演劇の今トップへ 月インデックスへ 前ページへ 次ページへ