プロレスに託して語られる思いもさることながら、そのダイナミックなアクションがまず楽しめた。
うわすべりのセリフがほとんどなく、観念的なセリフも少ないのがいい。その少ない観念的なセリフがごく新鮮に聞こえるほどに、具体的なアクションでストーリーをグイグイ引っぱっていく。具体的で個性的な役を得て、俳優たちが楽しげなのもいい。
真実が顕れることによって飛ぶことができると信じている素顔の男(中島信和)。作り上げられた不敗神話の実態が暴かれることで、真実を現実のものにできて飛べるという男の希望を繋ぐプロレスの試合を描く。果たして真実は顕れるのか?
タイガーマスクVSマスカラス戦は、予定どおりタイガーを勝たせる試合だが、タイガーマスクがバイトというのが笑わせる。そのような仕掛けに挑むのが小林邦昭。タイガーマスクを追いつめる小林も、不敗神話を死守しようとする団体の策略の前に敗れ去る。だが・・・。
レスラーなどのキャラに助けられたところはあるにしろ、それでも脚本は少ない登場人物でうまくストーリーを運ぶ。プロレスの裏話というか常識というか、そんなものをうまく散りばめてストーリーに絡める。
アクションはそれほど激しくはないが、それでもそのボリュームは半端ではない。入れ込みようがわかる。覆面のかぶりもの効果もあるのだろうか、演技も思い切りがいい。そんななかでも、小林邦昭の濱崎留衣、ミスター高橋の森久智江と、女優のほうがはまっていて迫力があるのもおもしろい。
舞台中央にに菱形の大きなリングがあり、手前に客席も兼ねたリングサイドの椅子が並ぶ。上手奥に階段がついた高い台があり、中央に大きな電信柱。それらが、電車の中になったり街のなかになったりする。
照明も音響もプロレスの楽しさを盛り上げる。
そしてラスト。素顔の男は飛ぶ。川原武浩らしくない、ものすごく素直な終わり方で、カタルシスを感じてしまった。こんなのもありだ。
この舞台は劇団クロックアップ・サイリックスの第8回公演で、14日から16日まで4ステージ。最終回は若干空席があった。