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《2003.11月−12》

無駄な遠回りが好きねぇ
【未知らぬ夜の散歩人 (仮面工房)】

作・演出:佐野元一
23日(日) 15:05〜16:10 エンジョイスペース大名 1800円


 10歩で歩けるところを、わざわざ30歩もかけて歩いていくような、脚本の”薄さ”が致命的だ。
 一見不条理劇風だが、筋の通らないごまかしばかりで、ワケわかんない。

 夜の公園に、妻が妊娠8ヶ月という若夫婦。
 散歩人1から、夫は妻に危害を加えると脅されて殺人を強要される。助けを求めようとした散歩人2は、散歩人1の仲間。そして、散歩人3が殺しのターゲットで、しかも刑事だった。

 間延びした脚本だが、その原因は、よけいなストーリーと水増しのセリフ。
 まっすぐ歩けばいいものを、ストーリーは本筋に関係の薄いところをわざわざフラフラと遠回りする。例えば開幕後すぐ、妻への思いやりを表現するためだけに、ダラダラと同じようなセリフの繰り返しで5、6分も費やす。散歩人1が夫と話をするという状況に至るのに、解説と感情表現ばかりを、おもしろくもないセリフでさらに10分近くも費やす。
 書く内容がないのを、無理に原稿用紙のマス目埋めをしているとしか思えない。そんなこんなで、散歩人3の登場までに開幕から25分を稼ぎ、彼が刑事だとわかるのがさらに15分後。その間、わかりきった状況を解説するわかりきったセリフにもううんざり。もともと単調なストーリーを迷走させたうえに、セリフの水増しまでされたんじゃ、白けるなというほうが無理だ。

 筋の通らないこと。
 散歩人1は何で夫に殺人させる必要があるの? 子分の散歩人2にやらせてもいいし、自分でやればいいじゃん。夫は、散歩人1と話したり標的を撃つあいだ、身重の妻を公園の暗がりの目もとどかないところに置き去り? いっぱい出てくるピストルには安全装置もないんだ。
 こんな手前勝手の無神経さがリアリティを殺す。不条理劇風だからリアリティが要らないと考えているとしたら、とんでもないまちがいだ。

 そして脚本のひどさの極めつけ。3つの結末を用意して、3つともやってのけること。それはこの脚本家が、劇作の基本をまったく理解していないということの証明だ。
 結末1は、夫が散歩人1を撃ち、散歩人1が妻を撃つ。
 結末2は、刑事も妻も殺し屋の仲間だった―夫に何をやらせるつもりだったんだろう?
 結末3は、妻も刑事で、全部が夫もまき込んだ殺し屋退治のための芝居で、だから妊娠もウソ。
 アクションには、原因となるアクションがあるでしょ。だから、ちゃんと書かれた脚本なら3つの結末には絶対にならないでしょ。どうしても3つの結末をやりたいなら、それに見合った伏線は必要でしょ。それをおくびにも出さないで、唐突なワケもないアクションはひきょうでしょ。

 この舞台はきのうときょうで4ステージ。30人以上の観客で満員だった。


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