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《2003.11月−13》

構成のいい脚本・生きのいい演出
【女生徒 (非・売れ線系ビーナス)】

作・演出:田坂哲郎
24日(月) 13:05〜15:05 甘棠館Show劇場 1200円


 みごとな構成の脚本に、生きのいい演出と演技で、ものすごく楽しめる。
 終盤、何もかもを家族関係に収束してしまって、せっかく広げた世界をしぼめてしまったのが惜しい。

 ストーリーは、大きな展開をグイグイ進めていく。
 はじめにハズレという女性が登場して、状況をうまく語る。女尊男卑になってしまった近未来。それは、女性が男に頼らずに自己妊娠できるようになったからであり、その中心が女性教の教祖・天照子。
 それに対抗しようとするのが荻野新作。彼は女性に対抗しようと男が妊娠する研究をするが、生まれるのは奇形の女性ばかり。
 女性対男性の戦争が始まり、闘うのは、自己妊娠で生まれた女性と男が生んだ女性。ともに、成長促進剤で促成されている。

 そのような状況設定は抜群におもしろい。
 そのなかに、それぞれの思いを背負った多様な人物を配して、それらの人物を絡めながら展開するストーリーには説得力がある。荻野新作の子である主人公・智恵子は、3つ目の目が左手の掌にあるというように、奇形の生々しさが具体的に感じられるところまで表現される。

 演出は多彩であり、そして素直だ。
 場面転換の切れ味はいいし、動きのいいダンスシーンの挿入に違和感はない。本来なら長くかかるシーンを、ストップモーションの組み合わせでうまく進めたり、早めの暗転で新鮮な印象を出したりといった工夫が生きている。
 総じて、脚本も演出も観客の想像力を信じていて、それをうまく刺激する。

 キャストは多人数だが、それでもひとりが何役も演じるほどに役は多い。その役の持ち味を俳優はうまく出していて楽しめる。いい俳優が集まってきた。

 そのように全体的には満足できるが、惜しいと思うのは、家族という密な人間関係にストーリーを収束してしまって、せっかくのスケールを矮小化してしまったことだ。
 荻野新作と天照子が元夫婦だったとして、登場人物のかなりのところが血縁ということになり、そのことが男性対女性の対立の構図を弱めてしまった。もったいない。

 この舞台は劇団非・売れ線系ビーナスの第2回公演できょう3ステージ。初回を観た。満席だった。


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