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《2003.12月−3》

荒唐無稽さを塗りかぶせるていねいさ
【ハンエー通信社のそれから (ふわっとりんどばぁぐ)】

作:純友秋久 演出:妥田回向
13日(土) 14:05〜16:30 甘棠館Show劇場 1800円


 2時間半近い一幕の舞台を、みごとに作り上げた力量を、まず評価する。
 これだけのものを書ける劇作家のところに、いいスタッフ・キャストが集まって、充実した舞台だった。

 大手広告代理店の末端の子会社・ハンエー通信社。いわくありの人々が、CMのコンペへの参加を通して、互いを分かりあうという話。
 いくつもの恋といくつもの親子関係を担う10人の人物。その役どころのそれぞれに目配りが利いていて、入り組みあう人物をうまくからませ、ストーリーを展開する。

 やや甘いストーリー展開だが、どうしてそうなるかは徹底的にわかりやすく語られ、すべて納得がいく。語りすぎて余韻がなくなったと思えるくらいだが、そこは感情をじっくりと引っぱることで対応する。それがそれほど臭くならないのは、人物の強い思いをきちんと出そうとしているからだ。

 ていねいなつくりだ。
 そのていねいさによって、単純なサクセスストーリーともいうべき内容が、甘すぎたりお涙ちょうだいになることなく、なんとか現実性につなぎとめられている。全体がメルヘンで、見ていて気持ちよくなり元気が出ることをねらった作品だが、「なんで?」という疑問符が付く荒唐無稽さを、ていねいさで塗りかぶせる。
 人間関係がからみすぎ密すぎる上に、ラストの想定が早くついてしまうという欠点はあるが、ハッピーエンドに向かって一直線とばかりは見せず、何とかかいくぐったと見せるのは脚本の力だろう。ちょっとごまかされたかなと思うところもがないこともないが。
 俳優もそれぞれの役を、ていねいに生き生きと演じていた。

 この舞台は3日間6ステージ。満席だった。


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